「反米大陸」

 「反米大陸 ―中南米がアメリカにつきつけるNO!」(伊藤千尋 集英社新書0420D)読了。今の世界を全ての次元において総体的・歴史的に考察することを、己の大きな課題としています。その際に、見過ごせないのが中南米諸国の動きですね。これまでも「反米大統領チャベス 評伝と政治思想」「ラテン・アメリカは警告する」などで紹介してきましたが、アメリカによる事実上の植民地的支配を受け、新自由主義の実験場とされ、そして今一致団結しながらそれに立ち向かおうとしているのが中南米諸国です。20世紀の歴史をふりかえり、今の世界のリアルな姿を知り、そして未来を考える上で、重要なヒントを与えてくれる地域ですね。本書はアメリカと中南米諸国の関係について歴史的にふりかえるとともに、その現状を伝えてくれる内容です。
政府の規制を撤廃・緩和して、民間の自由な競争により成長を促すというのが 新自由主義の基本的なコンセプトで、外資の導入・国営企業の民営化・公務員のリストラ・自由貿易・小さな政府などが主な政策です。それを支えているのが、自由競争により繁栄すれば、雨の雫が滴り落ちるように貧しい層にも富が浸透するという「トリクル・ダウン」理論。しかし、現実にもたらされたのは中小企業、地場産業の倒産であり、あふれる失業者であり、格差の増大でした。その結果、対外債務が膨らみ、その返済資金をひねりだすために、国際通貨基金(IMF)が指導した構造調整と呼ばれる経済締め付け政策によって、公共料金は値上げされ、補助金はカットされ、中南米の社会はボロボロになります。こうした状況の中、近年、ブラジルのルラ・ダシルバ大統領、アルゼンチンのキルチネル大統領、ウルグアイのバスケス大統領、ボリビアのモラレス大統領などなど反米・反新自由主義を掲げる左派政権が次々と誕生し、協力する動きがはっきりと現れています。これまででしたら、お互いに反目し合い、そこにつけこまれてアメリカに一本釣りされて結束は崩壊したのですが、経済面での結束を優先しているので過去のような失敗は繰り返さないであろうというのが、著者の予測です。将来的には、EUのような南米共同体の発足もありうるようです、アメリカはやっきになって叩き潰そうとするでしょうが。
 新自由主義に抗い、もう一つの選択肢(オルタナティブ)を考える上で恰好の材料をいただきました。そして何よりも学ぶべき点は、格差を広げ、弱肉強食の社会を作ろうとする政府に対して、反対の意思を投票やデモなどの形で明確に表明した市民の力です。言うまでもなく、新自由主義の渦巻きにどっぷりとひたり、アメリカ政府に尻尾を振りながら追従し、格差社会を蔓延させているのがわれらの日本政府です。私たちは何をすべきでしょうか?

 余談。本書では、アメリカが中南米諸国に介入した手口をわかりやすく説明してくれております。後学のために記しておきましょう。明日は我が身ですから。そして忘れてはいけないのは、日米安全保障条約および米軍基地が存在するかぎり、日本はこうした手口の片棒を担ぎ続けることになるということです。銘肝しましょう。
1 アメリカに都合の悪い政権を非難する。非難の口実に使われるのが共産主義、あるいはテロリスト、「悪の枢軸」、「民族浄化」などのキャッチコピーだ。
2 反政府放送局を設けて、謀略宣伝を流す。
3 アメリカの言うなりになる兵士を集めて、傭兵として反政府ゲリラを組織し、自分の手は汚さずに、気に入らない政権をつぶす。兵士の多くは、元の独裁政権の軍人だ。指導者にはアメリカ人、あるいはアメリカで訓練された軍人を充てる。
4 ゲリラに周辺から侵攻させる。ゲリラの兵力が少なくて頼りにならないときは、米軍が軍事顧問団として支援する。
5 領土の一部を占拠すると、アメリカの言うことに従う人を代表にして、傀儡政権を樹立させ、その政権からアメリカに支援要請させる。
6 その要請に応える形で海兵隊が出動し、武力で制圧する。

by sabasaba13 | 2008-11-16 09:22 | | Comments(0)
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