「最高裁が法を犯している!」(井上薫 洋泉社新書y192)読了。日本におけるい司法の劣化が甚だしいのではと危惧しています。われわれ一般市民の権利や自由を守る砦であるべきなのに、行政や大企業にすりすりと擦り寄った判決があまりにも多すぎるのではないのか。その元凶は最高裁にあるのではと常々思っておりましたが、本書を読んでその一端がわかりました。「つぶせ! 裁判員制度」でも紹介しましたが、著者は理学部卒業後、民間の研究所に勤務、その後独学で司法試験に合格して裁判官を務めて退官し、弁護士として活躍されているという、ちょっと変わった経歴の持ち主です。最高裁のあり方を批判するために、著者がケース・スタディとして取り上げたのが、2007年4月27日に、わずか一日の間にぽんぽんぽんぽんぽんと出された五つの判決・決定です。午前には、第二小法廷において、強制連行された中国人元労働者が西松建設に求めた損害賠償を棄却。同日午後には、第一小法廷において、中国人女性が日本国に対して求めた損害賠償請求(いわゆる第二次慰安婦訴訟)を棄却。他の三件は第一次慰安婦訴訟(第一小法廷)、劉連仁事件(第二小法廷)、強制連行福岡訴訟(第三小法廷)という中国人らが原告となり戦時中の被害について賠償を請求した同種の裁判ですが、いずれも上告を棄却、内容については判断せずという決定でした。その理由は、日中共同声明により個人の請求権は放棄されたというものです。
私などは、ああこれで日本の戦争犯罪に対する個人の損賠賠償請求への窓口が閉ざされてしまったのかと落胆しただけでしたが、さすがに法律・裁判のプロフェッショナルは違います。内容はともかく、その手続きがあまりにも杜撰しかも違法性の疑いがきわめて濃いと著者は指摘します。まずは最高裁に関する基本的知識です。最高裁は、そこに属する裁判官15人全員で構成される大法廷と、5人の裁判官で構成される三つの小法廷で構成されます。まず小法廷で事件を審理し、憲法違反の判断等、特に重要で、判断の統一を図るべき場合にのみ大法廷に回してそこで審理するというわけ。留意すべきはこれらの小法廷は独立した法廷で、裁判官は憲法・法律と己の判断のみに従うべきものだし、そこでの評議の内容について漏らすことは許されません。よって、この五つの判決・決定を同日にぶつけたのはおかしいと氏は判断されます。直前に下された判決や決定と、違う内容になる可能性は当然あります。最高裁の判例をくつがえす際には、大法廷で審理を行わねばならないという規定が裁判所法にあるので、同日に五つの判決・決定をぶつけるのは無茶・非常識です。しかも、二つの判決が酷似、というよりも一番重要な判決理由については全く同じ文章です。以下引用しますが、これには私も唖然としました。 <午前の判決:西松建設訴訟>ねっ全くの同文、偶然の一致とは考えられません。つまり、ここでは「談合」と「秘密の漏洩」が行われていた可能性がきわめて高いということです。つまり、最高裁裁判官がお互いの評議について情報交換(秘密漏洩)をし、「こういう理由でこういう結論を出そう」と談合をし、「あんたの小法廷でまずやってくれれば、後はみんなで追随するよ」と根回しをしたのではないのか。何のため? 著者は、その目的は「最高裁としての統一見解を示す」という点にあり、以後、こうした事件については、すべての裁判において「日中共同声明によって中国人らの戦後補償を求める請求権はなくなった」という判断をさせるためではないかと指摘されています。三つの小法廷が談合して新しい裁判の基準(判例)をつくり、後の裁判官を拘束して同じ判断をさせようとしたのではないか、だとしたらこれは裁判官の独立を侵害するものです。 また、判決理由の中で、判決を導くために必要のない内容がもりこまれるのも違法だと批判されています。氏曰く「蛇足判決」、判決に関係のないことにまで裁判所が判断を下すのはあきらかに越権行為であるという指摘です。さらに司法に関する行政権、中でも人事権を最高裁が握っていることにも問題があります。最高裁裁判官を任命するのは内閣ですが、実際は丸投げ状態。最高裁が出身母体(裁判官・検察官・弁護士・学者)の比率を変えないように選び、それをそのまま内閣が任命しているのが現状のようです。そして下級裁判所の人事権を最高裁が握っているため、さからえない。さからったら左遷などの憂き目が待っているというわけ。 まとめましょう、最高裁は、談合・秘密漏洩をしながら、蛇足があろうがなんであろうが、とにかくいいたいことを勝手に判決の中に書いて、それをもとに判例集を自ら発行・編集し、それを守るように下級裁判所に求め、素直に従わない下級審の裁判官に対しては人事権を使っていじめをする。はい、これが最高裁の姿です。私思いますに、こうした独裁的な人事権を含む行政権を認めてもらい、また違法性のある行為を見逃してもらうために、一種の交換条件として政府・財界よりの判決を下しているのではないのかな。 著者は、国会議員による裁判官訴追委員会を活性化すること、人事権を含む司法行政を最高裁から取り上げ、国会のコントロールがおよぶ別の第三者機関に委ねること、マスコミがこうした事態をきちんと報道すること、以上を提言されています。同感ですが、先述のように、司法と持ちつ持たれつ悪しき癒着関係の上に胡坐をかいている国会議員にはとてもできぬことでしょう。「司法改革」というマニフェストを掲げる政党(あるのかな?)へのバックアップをしなければいけませんね。 というわけで、現代の日本の抱える闇と膿をまた覗いてしまいました。ほんとにどこまで腐っているんだこの国は。でも「絶望という愚か者の結論」を出すのはやめましょう。私も含めて、みんなでいろいろな行動(投票・投書・集会やデモへの参加などなど)を起こせば、必ずや変えられるはずです。
by sabasaba13
| 2008-12-08 06:13
| 本
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自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
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