「一年生」

 ♪つんつくつくつくつん つんつくつくつくつ ひゃらー♪

 迎春

 ふつつかで粗忽なブログですが、今年もよろしくお願いします。


 「一年生 -ある小学教師の記録-」(岩波写真文庫143)読了。神保町の本屋で何気なく手に取り、立ち読みをしているうちにぐんぐんとひきこまれ購入してしまいました。長野県下伊那郡の小学教師だった熊谷元一氏が、1953(昭和28)年に新しく担任した一年生の生活を撮影したものです。赤瀬川源平氏がセレクトして復刻となったシリーズの一冊でもあります。どのページを開いても、身なりは貧しいけれど、笑い、学び、遊び、ふざけ、食べる子どもたちの生き生きとした姿が目に飛び込んできました。もちろん手放しで当時を礼賛するつもりはありません、この村も貧困などさまざまな問題を抱えていたことでしょう。しかし、この小宇宙には「統制と締め付け」がなかったという雰囲気が感じられます。教師たちが自らの信念に基づき、子供たちと向き合えた、稀有な時代なのかもしれません。熊谷氏が書き添えた書中の小文にその一端が垣間見えます。
 5,6人で共同工作をさせるとリーダーになるこどもができ、そのこどもがしっかりしていると作品をうまくまとめていく

 その時こどもの知りたがることを求められた程度に答え、あとは別の機会に待つのがよいようである

 本を数冊あてがってみて、読み耽らなかったとしても、それでこの子は知的な方面の興味がないときめつけないで、それぞれの子の興味の筋をいろんな場面で観察してやりたい

 けんかの形式のなかにあるいろいろな意味をあたたかく汲みとってやることが、こどもに対する愛情の一つである

 こどもの生活感情のつぼにはまった条件でならむしろ仕事も大好きである

 黒板絵は画用紙に描くのとちがって直せるという安心からだろうか、大胆なのびのびした絵が多く、こどもたちは好きなものを自分でいいと思うまで描く。紙に描く時のように先生にきくこともない。ほめられようとも思わない。ただ楽しんで描く。合作も自由で、自分の描いた絵の一部に他のこどもが色を入れても怒らない

 こどもを愛情をもって、のびのびと育ててやることのためにはもっと社会がよくならなければといつも思う
 なんと叡智にあふれた言葉。子どもたちの伸びる力を信じながら愛情をもって接し教え、能力がないと簡単に決めつけず別の機会を待つ。そして良い教育のためには良い社会が必要だという不抜の信念。そうした氏の思いが、写真や文章からにじみでてきます。しかしこうした教育観は、現在、フィンランド行われているものときわめて近いのではないかと思い当たりました。教え合いを重視し、マイペースで学べるための工夫。そして低学力の子どもたちを見捨てないという決意。以前紹介した「競争やめたら学力世界一 フィンランド教育の成功」(福田誠治 朝日選書797)の書評を参照していただけると幸甚です。もちろん、施設・学用品などの教育環境の整備においては大きな違いがあるでしょうが、その志はあまり変わらないと思います。福田氏は、いわゆる「ゆとり教育」が始まるまで、戦後五十年にもわたって学校や教師は底辺を上げることに労力を注いできたことを確認したい、と述べられておりましたが、この写真集を見て実感することができました。温故知新、この時期の教育から学ぶべきことが多々あるのではないかと思います。
by sabasaba13 | 2009-01-01 07:49 | | Comments(0)
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