「憎悪の世紀」

 「憎悪の世紀 (上・下)」(ニーアル・ファーガソン 仙名 紀訳 早川書房)読了。20世紀の歴史に関する面白そうな本がないかなと、本屋の書棚の間をそぞろ歩いていった時に偶然見つけたのが本書です。上下二冊、計1000ページに及ばんとする大部の書ですが、副題にひかれて購入してしまいました。「なぜ20世紀は世界的殺戮の場となったのか」 正面切ってそう言われると、うむむ、これは難問です。ハーヴァード大学歴史学教授の著者は、該博な知識と多様な資料を駆使しながら、この問題に真っ向から挑んでいます。彼の主張の核心は、この一文にあるのではないでしょうか。
 20世紀の極端な暴力行為、とくに、それが1940年代の初期という特定の時期に、特定の地域、つまり中部・東部ヨーロッパ、満州や中国でなぜ集中的に起こったのかを説明するためには、三つの要素が必要ではないかと思われる。つまり民族の対立、経済の緊張、帝国の衰退だ。
 具体的な考察はぜひ本書を紐解いていただくとして、納得できる結論ではあります。ただ他者を人間以下の存在と見なし平然と殺戮するためには、ある一線を踏み越える、あるいは心の中の何かが機能しなくなる、そういう決定的なポイントがあるのではないか。その点に関する分析がないのが、物足りなく思います。私が読み過ごしたのかもしれませんが。
 他者への憎悪が炸裂した歴史的瞬間を、日記・回想・小説を駆使しながら再現する部分は大変読み応えがありました。異民族間での婚姻がすすみ、外見もほとんど違わず、今まで隣人として暮らしてきた人々が、突如として少数派である他者への殺戮をくりひろげる。人類の歴史において大量殺戮は何度も行われてきましたが、この「突然、隣人を排除すべき他者と見なす」という点が20世紀の特徴かもしれません。
 第二次世界大戦の歴史に関して、これまで知らなかった知見を数多く知ることができたのも大きな収穫です。また連合国側によって行われた殺戮行為についての記述も充実したものです。ナチス・ドイツや日本軍による殺戮行為だけを断罪してすませられる問題ではありませんね。いずれにせよ、20世紀において多くの人々が抱いた圧倒的な憎悪の前に、足が竦み眩暈を覚えます。「人間以下」「人間とサルの雑種」「害虫」「原始的な生物」「サルっぽい人間」「虫の大群」、いずれも敵側の人間にあびせかけた形容です。
by sabasaba13 | 2009-01-16 06:06 | | Comments(0)
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