危ない国

 さる4月5日、北朝鮮は、自制を求める国際世論の声にもかかわらず、ロケット発射を強行しました。核兵器を搭載したミサイルをちらつかせて政権の延命を図る瀬戸際外交だと思いますが、いやはや危ない国です。ただ金総書記とそれをとりまく官僚たち(もちろん軍人を含む)が、生き残りのためになりふりかまってはいられない崖っぷちの状況に追い込まれているのだと冷徹に見極めることが重要だと思います。それを一番よく理解できるのが日本ではないのかな。だって、第二次世界大戦の末期に大日本帝国は同じ状況を経験したのですから。大日本帝国の中枢が、己の延命と存続のために数多の国民の生命を犠牲にしながら迷走した歴史的事実を思い返せば、北朝鮮民主化のための方策を考える一助になるでしょう。かつての日本の例にならえば、軍部官僚の切捨てと一定期間の非軍事化、象徴総書記制の採用による金一族の非政治化と延命、アメリカとの軍事同盟条約締結と基地提供というのも一つの道だと思います、北朝鮮の人びとにとって、そしてアジアに生きるわれわれにとって望ましいか望ましくないかは別にして。
 そして閉口したのが、日本における過熱した政府の対応と報道です。まるで発射されるのが、そして日本に落下するのが待ち遠しくてならないようでしたね。ま、気持ちはよくわかります。北朝鮮が危ないことをしてくれれば、日本人共通の脅威としてみんなの苛つきや不満をそちらにそらすことができるし、アメリカとの軍事同盟強化や自衛隊の軍備増強の根拠にもできるしね。政治家・官僚に「今、日本にとって最も必要な国は?」というアンケートをとれば、おそらく第一位はアメリカ、第二位は北朝鮮ではないかと邪推します。彼らは、北朝鮮の民主化を望まず、今のままずっと危ない国であり続けてほしいと衷心から願っていると邪推します。

 さて本題です。実は北朝鮮よりももっと危ない国があることを(あらためて)思い知らされました。日本におけるジャーナリズムの良心「DAYS JAPAN」2009年4月号に掲載された記事「過去最大量のMOX燃料日本へ」を要約して紹介します。09年3月6日未明、プルトニウム約1.7トンを含む20トンものMOX燃料(ウラン・プルトニウム混合酸化物)を積んだ輸送船パシフィック・ヘロン号が、フランスを出航し、日本へと航海しています。中国電力・四国電力・九州電力が核(原子力)発電の燃料としてプルトニウムを利用するプルサーマル計画で使用するためですね。なおプルトニウムの致死量については、スプーン一杯で2000万人とか、1グラムで約50万人とか諸説ありますが、最も毒性の強い物質のひとつであることは間違いないでしょう。ところが、この輸送に関して日本は、沿岸諸国と緊急時のための計画も協議もしておらず、事故の対策や補償の制度も整えていません。また国土交通省は、電力会社が法規の下で行わなければいけない落下試験の条件を満たしていないまま輸送容器の認可を出し、輸送が開始されました。これまでに幾度もこうした核燃料輸送が行われてきましたが、沿岸諸国は強い憂慮または反対を表明しています。1995年にはチリの海軍によって「領海から離れよ! さもなくば軍事的措置をとる」と追いたてられて日本に向かったそうな。はあ(溜息) しかもこれまで日本に到着し国内で貯蔵されているプルトニウム、およびMOX燃料は未だ全く使用されておりません。技術的な困難さ、度重なる事故、そして採算がとれないため、日本のプルサーマル計画は完全に頓挫・破綻しているわけです。しかし日本政府は、この計画に毎年エネルギー研究開発費用の64%を費やしています。というわけでパシフィック・ヘロン号が日本に到着するのが、予定では五月上旬。Welcome Plutonium ! 日本のジャーナリズムがどのように報道するのか、あるいはしないのか注視しましょう。
 また山ノ神が某研究会でもらったパンフレットによると、六ヶ所村再処理工場で高レベル廃液漏れという重大な事故が起きていることや(「東奥日報09.1.23」)、同工場の直下にこれまで未発見だった活断層がある可能性が高いということも(「岩手日報」08.5.25)も知りました。そして巨額の開発費用などを理由にアメリカが核再処理を断念したことも(「朝日新聞」09.4.21夕刊)。こうした重要な事実の断片をつなぎあわせて、問題の所在を明らかにすることが社会の木鐸たるジャーナリズムの使命だと思うのですけれどね。しゃあーない、頑なに沈黙を守る日本の報道機関にかわって僭越ながら私が言いましょう。日本政府・日本原燃・電力会社よ、即時即刻プルサーマル計画を中止し、責任の所在を明らかにし、責任者に対してしかるべき措置を取りなさい。

 はい、結論です。スーパーニッポニカによると「危ない」とは「危害または損害を受けそうで気がかりだ」という意味、となると今世界で最も危ない国の一つに、われらが日本をノミネートするべきでしょう。
 さて問題です。日本に刻々と迫り来る1.7トンのプルトニウムと、酔っぱらって公園で裸になった草なぎ剛氏、大騒ぎしなければいけないのはどちらでしょう? ちょっと難しい問題かな。

 追記。以前に書評で紹介した「核大国化する日本」(鈴木真奈美 平凡社新書336)が、この問題に関して考える際に必読の書です。よろしければご参照ください。

 本日の一枚。以前「六ヶ所村 核燃基地のある村と人々」(島田恵 高文研)で紹介した写真をもう一度紹介します。六ヶ所村に運び込まれた、雨に打たれ煙を上げる高レベル放射性廃棄物輸送容器です。
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by sabasaba13 | 2009-05-01 07:07 | 鶏肋 | Comments(0)
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