日本民藝館

 それでは日本民藝館へと向かいましょう。京王井の頭線に乗って二つ目の駅、駒場東大前で下車。すぐ目の前が東京大学駒場キャンパスです。開館にはまだ早いので、日本近代文学館と駒場公園に立ち寄ってみることにしました。線路に沿って西へすこし歩くとお屋敷が建ち並ぶ閑静な住宅街。戦前のものらしき物件や、お金をふんだんに使った邸宅が眼を愉しませてくれます。古い表札もゲット。以前に訪れた阿佐ヶ谷西荻窪でもいくつか見かけましたが、このあたりも採集ポイントかもしれません。「大震災の備えとして 一人一人が三日間生きのびる為の備えをしよう 誰かをあてにするのは甘いと思う」という駒場防災会議の貼り紙には、うんうんと首肯してしまいました。ま、たしかにおっしゃるとおりですが、こちとらきっちり税金を払っているのだから行政もやるべきことやってほしいですね。
日本民藝館_c0051620_6145948.jpg

 そして駒場公園に到着、その一画に日本近代文学館があります。本日の展示は「斎藤茂吉と周辺の人々」「二葉亭四迷没後100年」「川端康成をめぐる書簡」、いずれもなかなか充実したものでした。詩歌の鑑賞願が開かれたと芥川龍之介が茂吉に送った感謝の手紙(特に聴覚において)や、太宰治が川端に芥川賞をねだった泣訴状など、興味深く拝見いたしました。そしてすぐ近くにあるのが旧前田邸の和館と洋館、ここ駒場公園はもと加賀百万石・前田家の邸宅跡なのですね。土日祝日には内部を見ることが出来るとのことなので、さっそく入館。いずれも贅を尽くすとともに趣味の良い物件でした。公園というよりも、武蔵野の雑木林を思わせる園内をしばし逍遥し、そして公園に隣接した日本民藝館へ。
日本民藝館_c0051620_6152438.jpg

 民藝(民衆的工藝)の美の認識の普及と,新しい生活工藝の振興を目指す民藝運動の本拠地として、民藝運動の創始者で宗教哲学者であった柳宗悦(1889-1961)を中心とする同志により企画され、大原孫三郎をはじめとする有志の援助のもとに、1936 (昭和11)年10月に開館したそうです。豪壮な蔵を思わせる本館は柳宗悦が設計、向かいにある西館は柳の旧宅で、毎月第二・三の水曜日と土曜日に公開されています。彼の言葉を紹介しましょう。
 民藝館の使命は美の標準の提示にある。その価値基準は「健康の美」「正常の美」にある。美の理念として之を越えるものはない。

 品物は置き方や、列べる棚や、背景の色合や、光線の取り方によつて少からぬ影響を受ける。陳列はそれ自身一つの技藝であり創作であつて、出来得るなら民藝館全体が一つの作物となるやう育てたいと思ふ。
 その言の通り、織物・染物・木漆工・陶器などのいずれおとらぬ逸品が、周到に配慮された環境のもとで展示されています。木を多用した棚と壁と柔らかな光線があいまって、落ち着いた気分で鑑賞できる空間をつくっていました。こうして見ると、無味乾燥で無機的な美術館がいかに多いことかよくわかります。氏の見識に頭をたれましょう。展示品のなかで心惹かれたのが角館の樺細工、自然の風味を生かした繊細にして洒落た意匠の日用雑器には脱帽です。作った方に正当な報酬をさしあげて手に入れたくなりました。
 本日の特別展は「棟方志功 倭画と書の世界」、彼の書をこれだけまとめて見られるのは眼果報です。豪放磊落、自由闊達、遊び心、どんな言葉を使っても及びもつかない独自の世界を堪能。書き順にそって筆の動きを想像・再現していくと、面白味も倍化します。飛び散った墨痕にも、彼の息遣いが満ち溢れているようでした。
日本民藝館_c0051620_6155289.jpg


 というわけで、天気の良い(別に悪くてもかまいませんが)一日、渋谷の「明日の神話」→駒場公園→日本近代文学館→旧前田邸→日本民藝館と経巡るコース、美術と文学と建築と自然にふれられる散歩としてお薦めです。余計なお世話ですが、資源を浪費し汚染物質をばらまく自動車に乗って郊外のアウトレット・モールで生産者から買い叩いた奢侈品をショッピングするよりも、かなり真っ当な楽しみを味わえることと確言します。

 本日の三枚です。
日本民藝館_c0051620_6161927.jpg

日本民藝館_c0051620_6163852.jpg

日本民藝館_c0051620_6165791.jpg

by sabasaba13 | 2009-05-09 06:17 | 美術 | Comments(0)
<< アイルランド編(41):ディン... 「明日の神話」 >>