「棚田はエライ」

 「棚田はエライ 棚田おもしろ体験ブック」(企画:ふるさときゃらばん 監修:新潟県安塚町 編著:石井里津子 農文協)読了。棚田の本を見るとついつい手に取ってしまう私。これまでも、「百選の棚田を歩く」(中島峰広 古今書院)や「棚田の謎」(田村善次郎・TEM研究所 農文協)といった本を紹介してきましたが、正直に言って棚田の具体的なありさまや一年の通じての農作業の様子などについては隔靴痛痒でした。図版や写真をふんだんに使ってわかりやすく説明してくれる本はないのかなあ、と思っていたらたまたま某サイトで見つけたのが本書です。さっそく購入して読んだところ、小学生向けの大変わかりやすい内容で嬉しくなりました。しかも棚田を通して日本の農業の現状と将来にまで思いを馳せるという充実感、さすがは気骨にあふれる出版社・農文協が手がけるだけはあります。
 冒頭いきなり、棚田とは一枚一枚「あぜ」で水をためているたらいのようなもの、という比喩。うーん鮮烈なイメージがわいてきますね。以後、棚田における米づくりの一年、棚田の生きもの、棚田の役割、棚田のあるくらし、棚田のいま・未来という内容で、実際に子供たちが調べるための内容を記した作業ノートをなじえながら、棚田の全体像とその偉さ・凄さがわかるようによく工夫されています。ダムの機能、地すべりや土砂流出の防止、水や空気の浄化、気温の調節、生態系の保護など、環境や国土の保全に棚田がいかに貢献しているかについてあらためて認識させられました。やっぱ棚田はエライ! これからも各地の棚田を彷徨するでしょうが、見る眼が多少なりとも肥えたような気がします。本書の出版関係者に、そして美しく健康的な自然とともに、美味しくて安全な食べ物を確実に食べられるという、暮らしの基本中の基本を苦労しながら担い続けている棚田農家の方々に感謝するとともに、多くの子どもたち、いや大人たちにも読んでもらいたい好著としてお薦めします。
 できればこうした小規模の自営農業を、ある程度政策的に壊滅させてきた日本の農業行政と政権与党の政策についても、ふれてほしかったですね。それが無理なら、それについて考えるヒントやきっかけだけでもあれば、もっともっと懐が深くなるのではないかな。

 なお拙ブログの「写真館」、棚田のコーナーもよろしければお楽しみ下さい。
by sabasaba13 | 2009-06-03 06:06 | | Comments(0)
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