「人名の世界史」

 「人名の世界史」(辻原康夫 平凡社新書295)読了。これは文句なく、楽しめかつためになる本でした。世界におけるさまざまな人名の由来や、それにまつわる逸話などをまとめた力作です。例えばMac-やO-という接頭辞は、アイルランド系の名前によくあり「~の息子」を意味する、なんていう断片的な知識はあったのですが(ex.マクドナルド・マッキントッシュ、オサリバン・オニール)、本書を読んで、O-は古ゲール語の前置詞で「~の血筋をひく」を意味するua-が連音化したもので、元来は祖父以前の父祖名のしかも男性のみ用いられたもの、またMac-は「~の息子」を意味する接頭辞で、通常は父親の名につけて名のったとのこと、といったことがわかりました。もちろん、これにとどまらず、ヨーロッパ、アメリカ、アジア、アフリカ、世界中の名前に関する興味深いお話がてんこ盛りです。詳細はぜひご一読していただくとして、これからいろいろな人名に出会うたびに、その出自や由来に考えが及ぶこと間違いなし。お薦めです。
 そしてあらためて人間が名前に託してきた祈り・願い・誇りといったさまざまな思いにも気づかされました。名前を分析することによって、その国や地域の文化・歴史を読み解く一助ともなりそうです。例えば、江戸時代に多かった「兵衛・衛門・助・介」といった名前の接尾辞は、すべてもともと官僚の地位や役職を占める言葉なのですね。名前だけでも公権力の末端につながろうとする人々の思いを見るようです。ドラえもん、君も公務員指向だったのか! また最近、意味がよくつかめずイメージだけが先行しているような名前をよく見かけます。例えば明治安田生命による「名前ランキング」によると、2007年誕生の女の子につけられた名前のベストテンは「葵・さくら・優奈・結衣・陽奈・七海・美咲・美優・ひなた・美羽・優衣」だそうです。もはや社会で共有される記憶が消滅してしまったということなのかもしれませんね、良いことなのか悪いことなのかはわかりませんが。
by sabasaba13 | 2009-07-26 08:56 | | Comments(0)
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