「大衆音楽史」

 「大衆音楽史 ジャズ、ロックからヒップ・ホップまで」(森正人 中公新書1962)読了。「音楽には二種類しかない。良い音楽と悪い音楽だ」と言ったのは、たしかデュ-ク・エリントンでしたね。この言葉を座右の銘とし、日々、ジャンルにとらわれずにいろいろな音楽を聴いています。同時に歴史に関心を持つ一学徒として、音楽とそれを生み出し受容した社会との関係についても知りたいなと思っていました。クラシック音楽に関しては「西洋音楽史」(岡田暁生 中公新書1816)という名著・傑作を手にすることができ溜飲が下がりました。"クラシック以外の雑多な音楽"としてひとくくりにされがちなポピュラー・ミュージックに関しても、社会・人間・歴史的状況との関連を論じた研究書はないものでしょうか。「ジャズの歴史」とか「ロックの歴史」とかいう概説書も何冊か読みましたが、ミュージシャンや名曲を時代順に羅列しただけの薄っぺらいものばかり。そして出会ったのが本書です。文化地理学を専門とされる著者が、人間の移動と文化接触がどのような音楽を生み、どのような変化を音楽にもたらしたかを、フォークソング、ジャズ、ブルース、ロック、レゲエ、パンク、ラップについて考究した大作です。章立ては「ポピュラー・ミュージックの登場」「黒人音楽―ジャズとブルース」「ロックンロールと若者文化」「パンク・ロックの抵抗」「レゲエ」「モータウンとヒップ・ホップ」の6章、氏は「ある大衆音楽がどのような社会的な状況の中で、どのようなプロセスで生み出され、育まれ、どのような人びとに、どのようにして聴かれたのかということである。別言すれば、音楽を音楽として語るのではなく、音楽を取り巻く社会的な状況を複眼的に捉えながら語る。(p.ⅳ)」と力強く述べられています。専門外でありながら、これだけの幅広いジャンルの大衆音楽と社会状況の複雑にして豊穣な関係を手際よくまとめあげた力量には頭が下がります。
 詳細はぜひ本書を読んでいただくとして、ミュージシャンをモルモットのように観察するのではなく、暖かい共感とともに論じている印象を心地よく受けました。たぶん氏が一番言いたかったのは、これではないでしょうか。
 音楽は、声を挙げることを許されない、あるいは挙げても聞かれることがない社会の中で周辺化された人びとにとって、重要な表現手段であった… (p.250)

by sabasaba13 | 2009-09-04 06:08 | | Comments(0)
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