「好戦の共和国アメリカ」

 「好戦の共和国アメリカ -戦争の記憶をたどる」(油井大三郎 岩波新書1148)読了。まったくもってアメリカってえ国はどうしてこんなに戦争が好きなのでしょうかねえ。その「好戦性」の由来を解明するために真っ向から挑んだのが本書です。アメリカの国民文化と「好戦性」の関係を通史的に検討し、その際、様々な戦争体験がどのような記憶として定着し、それが次の戦争にどのような影響を及ぼしたのかを明らかにするというのが著者の意図。独立戦争、対先住民戦争、第二次米英戦争、アメリカ・メキシコ戦争、南北戦争、米西戦争、第一次大戦、第二次大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、そして「対テロ戦争」(かっこづけにしてあるところに氏の批判的な視点があらわれています)… アメリカの歴史を刻んだそれぞれの戦争の原因・過程・結果、そしてその記憶とその後への影響を簡にして要を得た記述でまとめられており、大変参考になりました。特に、対外的な失策がトラウマとなってその後の外交政策に影響を及ぼすという視点が面白いですね。例えば、独裁的政権の局地的侵略を見過ごすと世界大戦を誘発しかねないので、どんな小さな侵略でも軍事的に阻止するという強迫観念(「ミュンヘン症候群」)。二度と奇襲を許さないために、仮想敵国の軍事力を圧倒する兵力を平時でも維持しなければならないという強迫観念(「パールハーバー症候群」)。また、19世紀初め以来、広大な市場とキリスト教の布教という二重の関心から中国を重視し、蒋介石政権を援助してきたアメリカにとって、共産党による中国革命は衝撃となり、アメリカ国内では「中国の喪失」の責任を追及する「赤狩り」が活発化しました。その結果、共産主義国家への妥協が政治生命を危うくするとの強迫観念が定着することになります。言わば、「マッカーシイズム症候群」ですね。そして、史上初めての「敗戦」を体験したベトナム戦争以後は、長期化し、アメリカ兵に多数の犠牲者が出るような対外戦争には介入を避けるという「ベトナム症候群」が定着していきます。
 この四つの症候群を貫く「好戦性」の潮流・傾向として、著者は次の四点を指摘されています。
①軍事力による領土や市場の拡大を当然と考える潮流。
②軍事的な「勢力均衡」の維持を重視し、「均衡」が崩れた場合には、軍事力の行使を当然視する傾向。
③独立や国家統一の維持、さらには、国土や国民の防衛のための「最後の手段」として戦争を肯定する傾向。
④「戦争を終わらせるための戦争」とか、「民主主義のために世界を安全にする」といった「理想主義」的な論理で、戦争を肯定する潮流。
 「すべての歴史は現代史である」という言葉がありますが、こうした歴史を見ると、現在のアメリカが行っている軍事介入の論理がよく見通せます。アメリカの国益と「世界の民主化=アメリカ化」のための戦争、対外的に弱気な姿勢が政治生命を危うくすることへの恐怖、二度と奇襲を許さないための圧倒的な軍事力の維持、そして米兵の犠牲を最小限にするための最新テクノロジーの導入。しかしこうした潮流が続くかぎり、アメリカは世界における最大の不安定要因であり続けるでしょう。ほんとに困ったものですね。ただ、著者はこう述べられています。
 アメリカでは戦争を国益実現の正統な手段として肯定する「好戦派」が存在する一方、クエーカーのように戦争を原理的に否定し、徴兵を拒否する「原理的反戦派」も存在する。この原理的反戦派も「非戦派」に属するが、他方で、防衛戦争などは肯定しつつも、戦争は「最後の手段」として自制しようとする「状況的非戦派」が多数存在する。この人々は、その戦争の性格によって、「反戦派」に与したり、「好戦派」になったりする中間的は人々であり、アメリカにはその層が極めて大きいのである。(p.ⅴ)
 オバマ氏の当選も、分厚い層をなす「状況的非戦派」の意向が「反戦」へと傾いたということなのかもしれません。いずれにせよ、アメリカという国の「好戦性」が、過去の歴史の中から育まれてきたことがよくわかりました。戦争によって広大な領土と海外の植民地・従属地域を獲得し、戦争によって産業を発達させ、戦争によって科学技術の最先端分野を切り開いてきた国。そして戦争による国家や国民の存亡の危機を経験したことがない国。やれやれ、一朝一夕ではこの「好戦性」は消えそうにはないですね。
by sabasaba13 | 2009-10-05 06:09 | | Comments(0)
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