箱根編(2):彫刻の森美術館(09.10)

 翌日は気持ちのよい快晴、乾いて澄んだ空気を吸い込むと、心のフィルターに詰まった日々の雑事が洗い流されていくようです。今日はまず彫刻の森美術館に行ってみましょう。スイッチバックのある大平台駅から強羅行きの箱根登山鉄道に乗ってもう一度スイッチバック、急峻な勾配をうんせうんせと上り、富士屋ホテルのある宮ノ下を通り過ぎ、二十分ほどで彫刻の森駅に到着です。ここから歩いてすぐのところにあるのが「彫刻の森美術館」です。
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 1969年に開館した国内ではじめての野外美術館で、広大な庭園に近現代を代表する彫刻家の名作約120点が常設展示されています。そのほとんどが抽象的・前衛的な現代彫刻ですが、堅いことはいいっこなし。紺碧の空、白い雲、緑なす連山や木々や芝生を背景として存立する彫刻をじっと見て、おもしろいと思ったらしばし佇む、つまらないと思ったら立ち去る、ただそれだけです。なおじっくり鑑賞したい方にはイヤホン・ガイドもあります。まず出迎えてくれるのが、フェルナン・レジェの「歩く花」、そして美術館のシンボル的存在「人とペガサス」(カール・ミレス)。
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 そして動く彫刻モビールで有名なアレクサンダー・カルダーの「魚の骨」、その複雑なアウトラインが落とす影も作品の一部のようです。ナウム・ガボの「球型のテーマ」は何となく心惹かれる作品です。
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 おっ、非対称形の白亜の石門「風の刻印」もなかなかいいなあ、えーと作者は流政之… ん? どこかで聞いたことがある… パンッ そうだ、この前訪れた引田(香川県)にあった、真っ赤な紅殻(べんがら)塗りの蔵が衝撃的だった「かめびし屋」だ。魔除けと美観のために紅殻を塗るといいと先代主人に薦めたのが、この彫刻家・作庭家の流政之氏だと伺いました。こうした出会いも嬉しいものです。ピーター・ピアースの「しゃぼん玉のお城」は、プレイ・スカルプチャー(遊戯彫刻)ですが、遺憾なことに小学生までしか入って遊べません。
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 おっ、「美の巨人たち」に出てくるモデュロール兄弟のかたわれが、大地を抱きしめているぞ。アントニー・ゴームリーの「密着」という気になる作品でした。そしてこちらも当美術館のシンボル的存在、「ミス・ブラック・パワー」(ニキ・ド・サン・ファール)があたりを睥睨しながら屹立するあたりから、ヘンリー・ムーアの作品群があります。
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 もっとも気になる作品は、やはり「原子の形(核エネルギーのための原型)」(1964~65)です。シカゴ大学のキャンパスにある彫刻「核エネルギー」のための小さな試作だと思います。同作品は、1967年12月2日午後3時36分、エンリコ・フェルミの率いる物理学者のチームが史上初の自立的核分裂連鎖反応を起こすことに成功してからちょうど25年経ったその時刻に、地下の核実験場の真上で公開されたもの。ムーアの核兵器に対するスタンスについては寡聞にして知りませんが、能天気な礼賛ではないような気がします。よくよく見つめていると、そう、まるで白骨化した頭蓋骨に見えてきます。この禍々しくも巨大なエネルギーに真っ向から取り組んだアートは意外と少ないのではないでしょうか。私の知っている限り、岡本太郎の「明日の神話」とベン・シャーンの「ラッキー・ドラゴン・シリーズ」ぐらいです。映画ではけっこうあるのにね。その奥にある彫刻の解説プレートが見当たらなかったのですが、間違いなく「スピンドル・ピース」ですね。宮城県立美術館で見た記憶があり、たしかこれも核エネルギーをモチーフとした作品ではなかったかしらん。
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 本日の五枚、上から四枚目が「風の刻印」です。
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by sabasaba13 | 2009-10-30 06:24 | 関東 | Comments(0)
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