箱根編(6):箱根板橋(09.10)

 そして葉雨庵を出て石段を上ると、まるでロダンのバルザック像のような威容が見えてきました。老欅荘の名の由来となった、ケヤキの巨木です。寡黙にあたりを睥睨するその巨躯には畏敬の念すら覚えます。こういう木を見ると、いつも頭をよぎるのが田村隆一の「きみと話がしたいのだ」という詩です。一部ですが紹介します。
孤立してはいるが孤独ではない木
ぼくらの目には見えない深いところに
生の源泉があって
根は無数にわかれ原色にきらめく暗黒の世界から
乳白色の地下水をたえまなく吸いあげ
その大きな手で透明な樹液を養い
空と地を二等分に分割し
太陽と星と鳥と風を支配する大きな木
その木のことで
ぼくはきみと話がしたいのだ
 木について語れる言葉と、それを語りかける相手を、もちたいものですね。ふたたび石段をすこし上ると老欅荘の優美な佇まいが見えてきます。残念ながら中には入れないので、お庭から外観を見ることにしましょう。庭に向けてL字に間取りをとり、ガラス戸で光を大きく取り入れるつくりになっています。庭の景色もいいですね、瓦を幾重にも練りこんだ土塀と石塔、そして地を覆う苔が枯淡な雰囲気をかもしだしています。
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 というわけで松永記念館、お薦めです。余談ですが、益田孝(鈍翁)の本宅・茶室・庭園である「掃雲台」は宅地化されて見る影もないそうですが、そこにあった茶室「白雲洞」が箱根強羅公園に移築されています。以前に訪れたのですがこちらも一見の価値あり。さてこのあたりのガイドマップが記念館で入手できたので、すこし街歩きをしましょう。往時の風情はまったくありませんが、ところどころに見ものが散在しています。小さな水路は、芦ノ湖を源とする早川の水を小田原城下へ流すための上水道、小田原用水ですね。旧東海道に出てすこし歩くと板橋地蔵尊、山県有朋が揮毫した忠魂碑がありました。解説板を読むと戊辰戦争の戦没者十三名の姓名を刻んだ碑があるとのこと、探してみると鳥居の右手にありました。本堂にある大きな異形の大黒天にはちょっと驚きます。まるで楽天イーグルス経営陣に鉄槌をくらわそうとしている野村監督のようです。
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 地蔵尊の前にあるのが、昭和初期に建てられた出格子窓の植村邸。近くにはキューブを組み合わせたような摩訶不思議な木造民家がありました。
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 登山鉄道の陸橋で折り返して、地蔵尊の前を通り過ぎ旧東海道をしばらく歩くと、周囲を圧するように一際めだつ物件が内野邸です。醤油醸造を営んでおられた内野家の店舗兼住宅ですが、「どっからでもかかってこい」と言わんばかりの重厚な防火仕様です。剛毅木訥仁に近し、という感じ。
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 しばらく歩くと、バルコニー付洋風建築の朝倉邸が見えてきます。まるでプチ神殿か銀行のようなお姿、まったく空気を読まずに「みんなちがって、みんないい」とすましているような愛らしい建物です。そして国道1号線に出ると、1928(昭和3)年に建てられた瀟洒な洋風建築、大窪村の旧村役場に出会えます。そして箱根板橋駅に戻り、帰郷。
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 本日の三枚です。
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by sabasaba13 | 2009-11-04 06:18 | 関東 | Comments(0)
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