松本・上高地編(8):碌山美術館(09.5)

 なお彼女が書いた自伝「黙移」(平凡社ライブラリー)が、これまためっぽう面白い! 女性にとっては過酷な時代を、己を曲げずに信念を貫き通し、芸術を愛した彼女の生涯がよくわかります。その中で、荻原守衛は漱石の『二百十日』を愛読し、その登場人物・碌さんが面白いと言っていたので、友人たちは彼を"碌さん"と呼び、それが碌山という号になったというエピソードがありました。また森まゆみ氏による解説も秀逸、一部を引用します。
 …多感な黒光は、荻原碌山、中村彝、戸張弧雁、桂井当之助ら、若き芸術家、学者を身の回りに集め深く交際したが、その思慕に気付きながらそれ以上の関係にならず、男たちを悶々とさせた。
 「オカーサンは悪党だ、埒のそばまで人を引き寄せておいて、その内には一歩も踏み入らせないやり方だ。馬鹿者は知らずにうかうか近よってくるのだ」
 という中村彝の言葉が痛切にひびく。このことをして黒光を"悪女"とする男性側の非難は強いけれども、それは黒光自身の不幸と見ることもできよう。またそうしたすべてを是認し、妻の自由を保証した相馬愛蔵という夫の懐の深さも興味を魅かれるところである。(p.329)
 美術館の裏手には、彼のことを歌った高村光太郎の詩碑がありました。
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 そして彼の絵画作品を展示する杜江館、友人である高村光太郎、戸張孤雁、中原悌二郎らの作品を展示する第一展示棟、戸張孤雁の特別展が開かれていた第二展示棟を拝見。小用をたそうとトイレに行くと、(たぶん)青銅でつくられた「男」「女」という文字が、まるで彫刻作品のようでした。最近、ユニークなトイレ性別表示に凝っている私としては見逃せない逸品。ものの本質をざっくりと掴み取ろうとした碌山の美術館にふさわしい表示…というのは穿ちすぎですね。
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 そして地域の教員・高校生・中学生等の奉仕作業により建築されたという、枕木を使った校倉造り+石葺屋根のグズベリーハウス、受付のとなりにある小さな十字架がならぶ屋根が印象的な校倉造りの倉庫を拝見して、退館。小さいながらも、静謐な、そして充実したひと時を過ごせる素敵な美術館でした。
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 本日の二枚です。
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by sabasaba13 | 2010-03-01 06:17 | 中部 | Comments(0)
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