「ヤ・キ・ソ・バ・イ・ブ・ル」

 「ヤ・キ・ソ・バ・イ・ブ・ル 面白くて役に立つまちづくりの聖書」(渡辺英彦 静岡新聞社)読了。富士宮やきそばが静かな(賑やかな?)ブームになっているようですね。私は食したことはありませんが、紹介によると、硬めの麺、具には肉かす、トッピングは鰯などの削り粉、などなどとりわけ際立った特徴があるようには思えません。ご当地B級グルメを愛する私としてはその存在を気にはしていたのですが。ところが先日読んだ「B級グルメが地方を救う」(田村秀 集英社新書0462)の中で、このブームの仕掛け人・渡辺英彦がそのいきさつについて著した抱腹絶倒本があると知り、さっそく飛びついた次第です。いやあ面白かった面白かった。富士宮の地域経済を立て直すのだ、という熱き使命感に燃えた人物が、さまざまな失敗・挫折・葛藤をくりかえしながら、血と汗と涙を流し歯をくいしばり四股を踏み、我が身を犠牲とした不眠不休の苦闘と努力の末に栄光を勝ち取る…といった「プロ○ェクト○」のようなプロセスは影も形も微塵もありません。遊び心、奇抜なアイデア、オヤジ・ギャグ、そして軽いフットワークを駆使して、あくまでも軽やかに楽しく「富士宮やきそば」という情報を発信していこうという姿勢は爽快ですらあります。その中心となる戦略は、お金を使わず在るものを活かし、住民の知恵でソフト戦略を重視すること。具体的には、話題作りと情報加工と情報発信です。例えば、NHK取材の当日に、富士宮にはやきそば学会とやきそばG麺が存在するというホラを吹いた後で、内実を埋め行動を起こしていく。このネーミングが情報加工ですね。"やきそば"という庶民の味と"学会"という権威的で大仰な名称のミスマッチ、FBI(連邦捜査局)職員の俗称G(Government) Menと麺をひっかけるしょーもないオヤジ・ギャグ、こうしたちょっとした言葉の楽しい響きがみんなの耳と目をひきつけるというわけです。著者はこうおっしゃいます。
 予算がなければ出来ない、もしくは予算の範囲内の事業を行うという考えは我々にはない。効果的だと思えることは予算のあるなしに関わらず取り組む姿勢であり、そしてこれが最も重要なのだが、出来ることからすぐ始めることだ。お金がなくても出来ることはいくらでもある。NHKにホラを吹くことにお金がかかるだろうか?(p.35)
 あるいは横手やきそば・太田やきそばとの饗宴で話題をつくり(三者麺談)、以後協力してローカルやきそばの魅力をアピールしていく(三国同麺協定)。感動的なのは、こうした動きに富士宮の人々が知恵を出し合いながら楽しく明るく怪しげに自発的に参加していくというところです。それはたんなるおふざけではない、著者の高い志に共鳴した結果だと思います。渡辺氏は、地域をより良くしようという使命感をもって、目先の利益に囚われずに、自らまちづくりに参画する市民をいかに増やすかが最重要の課題であると、ことあるごとに述べられています。富士宮やきそばの味+面白怪しい情報発信と話題作り+市民の自発的参画が相俟って、このブームが起こったことがよくわかりました。

 もちろん現今の凄まじい衰微を見るにつけ、B級グルメと情報発信だけで地方を活性化できるほど甘くはないでしょう。ただそれらを通して、自らが生まれ育った場をより良くしようと、みんなと協力しながら知恵を出し合い行動する人々が増えていけば暗夜の一灯、希望はあると思います。自然と他者を収奪せずに、各地域で幸せな暮らしができるようにするにはどうすればよいのか。こうした切実な問いを投げかけ、考え抜き、地に足のついた方法で解決をめざす。そうした人々が増えることを願い、自分もその一翼を担いたいなと思います。
by sabasaba13 | 2010-03-16 06:11 | | Comments(0)
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