池之端・根津・谷中編(3):無縁坂(09.5)

 そして旧岩崎邸のとなりが、森鴎外の『雁』の舞台となった無縁坂です。「岡田の日々の散歩は大抵道筋が極まっていた。寂しい無縁坂を降りて、藍染川のお歯黒のような水の流れこむ不忍の池の北側を廻って、上野の山をぶらつく。…」 片側は低層マンションが連なり風情はありませんが、もう片側の岩崎邸のしぶい煉瓦塀が往時の雰囲気を感じさせてくれます。
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 さてそれでは根津へと向かいますか。不忍通りに出ると、無性におなかがへってきました。ほんとでしたら根津か谷中で小粋な店をさがして食したいところですが、空腹と地頭には勝てません。ふと見るとビルの一階で「Build Port」という喫茶店が営業しています。付近のサラリーマン御用達のざっかけない雰囲気に引かれて、入ってみました。日曜日なので残念ながら日替わりランチはなし、ピラフと珈琲を注文しましたがこれがなかなかいける。醤油ベースの質朴な味が郷愁をさそい、玉葱の小股の切れ上がったしゃきしゃき感もグッド。そして香り高い珈琲をいただき紫煙をくゆらせながら、地図でこれから歩くコースを確認しました。このひと時が至福なんですね。
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 店を出てすこし歩くと左手にあるのが横山大観記念館。大観(1868~1958)が1909(明治42)年から、東京大空襲で住居を焼失し伊豆に疎開した一時期をのぞき、没するまで住んでいたところです。戦後に再建した家屋がそのまま保存され、彼の作品を展示する記念館として公開されています。天気もいいし気分もいいしひさしぶりに入ってみますか。軸装の作品が床の間に飾られ、本来のあるべき姿で鑑賞することができます。客間「鉦鼓洞」の凛とした佇まいと、ここから眺める小さい庭の静謐さも素敵です。銀閣寺形手水鉢が庭全体をきりっと引き締めています。なおこちらでは写真撮影はいっさい禁止でした。
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 そして不忍通りを横断し、動物園の脇の路地を歩いていくと、水月ホテル鴎外荘があります。かつて鴎外が住んでいたところで、その旧居が残されており宴席にも利用できるそうですが、いまだ未見です。すこし歩くと、マンサール屋根にイオニア式列柱を組み合わせた奇抜なデザインの木造三階建て、上田邸(旧忍旅館)が健在、一安心しました。
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 その先にある信号を右折し、動物園ぞいにゆるやかな清水坂があります。左手には蔦におおわれた洋館の廃屋があり、怪しげな雰囲気がただよっていました。かつては樹木が繁茂し昼でも暗く「暗闇坂」と言われたそうな。上野高校を右折し、谷中七福神の一つ大黒点がいらっしゃる護国寺大黒院の前を通って東京芸術大学のところで芸術通りへと左折。言問通りを渡ると下町風俗資料館付設展示場として旧吉田屋酒店が公開されています。その前には純和風の木造二階の一階に、なんともレトロな雰囲気の喫茶店「カヤバ」がありました。嗚呼こういうところでお昼を食べたかったな、と近づくとドアには「当分の間お休みさせて頂きます」という貼り紙。復活を祈念いたします。その先には「愛玉子(オーギョーチイ)」が元気に健気に営業されていました。台湾でしか取れない愛玉子という果実の果汁を寒天状に固め、シロップやかき氷をかけたり、あんみつに入れたりして食べる、大正初期からある伝説のデザートだそうです。
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 本日の一枚は清水坂です。
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by sabasaba13 | 2010-04-05 06:46 | 東京 | Comments(2)
Commented by いまどき at 2010-04-05 09:52 x
はじめまして。この界隈なつかしいです。昔、下町風俗資料館というところで勤めていたことがあったんですが、ものを運ぶのにリアカーを曳いて移動していたんです。坂は大変でした。愛玉子の若旦那も当時資料館でアルバイトなさっていたんですが、今頃どうしていらっしゃるかしらん。昨年、母が東大病院に入院していたんで、しょっちゅう無縁坂を行き来してました。坂に面した小さなお寺のお堂が蔵みたいな造りになっていて、時間があったらゆっくり見てみたいと思っているんですが、、。
Commented by sabasaba13 at 2010-04-07 18:53
 こんばんは、いまどきさん。丁重なコメント、どうもありがとうございました。下町風俗資料館は、たしか不忍池のほとりでしたね、なかなかしぶい資料館であったと記憶しています。この界隈に関するがいろいろな思い出がおありなのですね。何か人の心を静かに揺さぶる地霊のようなものがあるような気がします。いいところですね。
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