下館・益子編(8):益子参考館(09.8)

 それでは益子参考館へ向かいましょう。自転車にまたがりしばらく走ると、とてつもなく巨大ないわゆる"狸の置物"に遭遇しました。いやはや信楽の専売特許かと思っていましたが、ここにも進出していたのですね。なお前掲書「日本やきもの紀行」によると、こやつは信楽の陶工・藤原銕造(狸庵)が十歳の時に夜なべ仕事をしていると、戸外で狸たちが輪になって腹鼓に打ち興じていたのを見たそうです。これを機に、1935(昭和10)年ごろから狸百態の制作をはじめ、戦後、昭和天皇の信楽行幸をこの狸たちが歓迎したことから話題となり、大ブレークしたとのことです。おまけですが、その八相縁起も紹介しておきます。①笠:思わざる悪事災難避けるため用心常に身を守る笠。②顔:世は広く互いに愛想よく暮し誠をもって務めはげまん。③目:何事も前後左右に気を配り正しく見つむる事忘れぬ。④通帖:世渡りはまず信用が第一ぞ活動常に四通八達。⑤徳利:恵まれて飲食のみに事足りて徳はひそかに我身につけん。⑥腹:物事は常に落ちつきさりながら決断力の大肚をもて。⑦金袋:金銭の宝は自由自在なる運用をなせ運用をなせ。⑧尾:何事も終りは大きくしっかりと身を立てるこそ真の幸福。
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 そして益子参考館に到着です。濱田庄司が製作の参考として集めた品々や、彼および河井寛次郎やバーナード・リーチの作品を、彼の自邸・工房を活用して展示しています。自分の作品が負けたと感じたときの記念として蒐集した日本・中国・朝鮮・台湾・太平洋諸島・中近東・ヨーロッパ・南米の工芸品の凄味もさることながら、周囲の景観と溶け合った古建築の雰囲気が素晴らしいですね。長屋門、大谷石の石蔵、茅葺屋根の母屋、そして工房と登り窯。中でも工房が素晴らしい。雑草が生えた茅葺屋根、しぶい土壁、内部は土間で片側には土室(つちむろ:粘土置場)があります。天井には、成形した器を乾燥させるための棚がとりつけられ、いくつもの轆轤が並んだ作業台の前には、まるでル・コルビュジエのリボン・ウィンドウのような横に連続した窓がしつけられ、手元を明るくするようになっています。そこからさしこむ柔らかい外光、かもしだされる陰翳、息づくように浮かび上がる木や土といった自然の素材。優しさと凛とした緊張感が響きあう心地良さ。濱田庄司がふらっと入ってきて、轆轤をまわしそうな気がしてきます。これを見られただけでも益子に来た甲斐があったというもの。至福のひと時でした。
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 なお偶然とは面白いもので、帰りの列車の中で読んだ「続・東北 -異境と原境のあいだ」(河西英通 中公新書1889)に、濱田も参加した民藝運動についての言及がありました。1930年代初頭から不況のどん底に落ちた東北地方の産業振興のため、柳宗悦らと農林省官僚との接触が始まるということです。言わば、東北の生んだ民藝品を称揚することにより、国民精神総動員の一翼を担ったのですね。1939年5月、日本民芸館で開催された東北民芸展における柳宗悦の講演について、河西氏はこうまとめられています。
 柳は東北を、琉球とともに「日本の固有性」を保持する地域にあげ、「東北地方は将来最も重要視される日本の文化的財産」であり、「国民性を最も健実(ママ)に今尚表現しているのは東北の品物」であり、「東北人の自覚が如何に日本の存在にとつて特別な意義があるかと想ひみないわけにはゆかないのです。東北の存在は日本にとつて大なる所有です」と絶賛した。仙台市の斎藤報恩会館で開かれた宮城県民芸品展覧会の趣旨も、東北地方の「日本民族古来の伝統」を称え、民芸品の紹介を通した「日本精神昂揚運動」をめざすことを謳っている。(p.136)
 この動きに濱田庄司がどう関わっていたかは分かりませんし、またこうした運動が彼らの業績を貶めるとは思いませんが、絶対に忘れてはいけない歴史的事実です。民衆が生み出した芸術を、他の民衆のそれと序列化をせず、またナショナリズム高揚のためにそれを利用しようとする国家の網に搦め捕られないようにすること。重要な教訓として銘肝しましょう。

 本日の四枚です。
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by sabasaba13 | 2010-04-25 07:42 | 関東 | Comments(0)
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