五島・対馬・壱岐編(30):韓国展望所(09.9)

 ここからは数分で韓国展望所に着きました。朝鮮風の意匠でつくられた展望所に入ると、海峡をはさんで対岸の釜山までわずか49.5km、天気が良く空気が澄んでいればその町並みが見えるそうです。しかし曇天と湿気のため、惜しいことに何も見えず。その近くにあるのが「朝鮮国訳官使殉難之碑」、1703(元禄16)年、釜山から対馬に向かった108人が乗った訳官使船が荒天のため遭難、全員が死亡するという悲劇が起こりました。彼らを悼むために、国境や官民の枠を越えてつくられたのがこの碑です。
五島・対馬・壱岐編(30):韓国展望所(09.9)_c0051620_810229.jpg

 さて残るは棹崎公園、善意と親切心にあふれる運転手さんは、「日本海に沈む夕日を見せてあげよう」とフルスロットル。赤馬研のような鋭いコーナーリングで、海からそそりたつ崖にへばりつく道を風のように疾駆していきます。ツシマヤマネコがいる対馬野生動物保護センターを通り過ぎ、三十分強で棹崎公園に到着。ああしかし… 無常にも厚い雲にはばまれ、夕日を見ることはできませんでした。「残念だったね」と光を発しながらくるくると回る棹崎灯台に"C'est la vie"と答えましたが、淡い夕映えと宝石のような漁り火が見られただけでも十分です。なおこちらには棹崎砲台の跡が公園として整備されていました。さてそれでは厳原へと戻りましょう。棹崎公園の近くには、山を神体とする神社がありました。ほんとうに対馬には古式が残っているのですね。
五島・対馬・壱岐編(30):韓国展望所(09.9)_c0051620_8103825.jpg

 もう日は落ち、暗闇が対馬をおおいつつあります。せめて睡魔と闘う際の援軍になろうと、いろいろと運転手さんとおしゃべりをしました。行政の観光に対する熱意のなさへの批判から、長崎県の厳しい風俗取締りへの言及(そのため佐賀県にある嬉野温泉に泊まる方も多いとか)、話題は尽きません。かつては対馬から津軽へ移住する人が多く、今でも対馬や津島という名字が多いとか。そういえば太宰治の本名は津島修治でしたね。また対馬と壱岐がなぜ長崎県に属するのか、疑問であるというお話。距離的には福岡県や佐賀県に近いし、長崎との航路もないのに。これについては「宮本常一の足跡」で言及されていました。「明治に入ってからのこの島々の不幸は長崎県に属したということであった」(「日本の離島」) 理由としては、①壱岐・対馬は地理的に九州本土の博多に近く、経済・流通の上からも関係が深く、長崎県とは経済的関係が薄い。②県庁所在地の長崎市に行くのに博多に出て、福岡・佐賀県を経由しなければ行けない不便さがある。③漁業問題として両島周辺は素晴らしい漁場でありながら、漁獲者は他県の船であり、島民のための漁業はなにも保護されていない。福岡県や佐賀県に移してくれという転県運動は、明治の末から戦後にかけて行われましたが、離島振興法の成立(1953)とともに立ち消えとなったそうです。よかったら車内で煙草を吸ってくれ、対馬には禁煙車などない、という力強いお言葉も忘れられません。そうこうしているうちに、四十分ほどで円通寺に到着。宗貞国(10代)が厳原(府中)に館を移すまで、78年間対馬統治の府であったお寺さんで、中国鐘の影響下、朝鮮の意匠にデザインされた梵鐘を見せるために立ち寄ってくれました。暗くてよく見えませんでしたが… なお通信使の功績碑もありました。
五島・対馬・壱岐編(30):韓国展望所(09.9)_c0051620_811944.jpg

 そして午後八時半に厳原に到着。結局、十一時間半という長丁場になってしまいました。運転手さんの十時間分の料金でいいよというご好意に甘え、33,600円を支払いました。いやはや、詳細にして要を得た観光案内、堅実な運転技術と対馬の道路事情に関する卓抜した知識、こちらの要望を取捨選択しながら適宜受入れてくれた度量、ほんとうに氏には感謝したいと思います。「しまもと」でアジのひらき定食をいただき、ホテルに戻ると、ロビーに棹崎公園から見た釜山の写真が飾ってありました。なるほどこう見えるのか。
五島・対馬・壱岐編(30):韓国展望所(09.9)_c0051620_8113631.jpg

 シャワーをあび、対馬産の焼酎「やまねこ」をくぴくぴ飲みながら、本日行けなかった心残りの場所に思いを馳せました。長さ150mほどの石垣が尾根に沿って続く猪垣(いがき)。陶山訥庵がつくった猪狩りの遺跡とも、中世の牧場の柵跡とも言われます。白村江の戦いに敗れた天智が築かせた朝鮮式山城、金田城(かねたのき)跡。海岸に漂着した寄藻を乾かして肥料にするために貯えておく石造りの小屋、青海の藻小屋。西津屋の立石。そして青海の段々畑。羊を数えるように思い起すうちに、いつしか睡魔の懐へ…

 本日の二枚、上は韓国展望所からの、下は棹崎公園からの眺望です。
五島・対馬・壱岐編(30):韓国展望所(09.9)_c0051620_812069.jpg

五島・対馬・壱岐編(30):韓国展望所(09.9)_c0051620_8122450.jpg

by sabasaba13 | 2010-08-28 08:13 | 九州 | Comments(0)
<< 五島・対馬・壱岐編(31):壱... 五島・対馬・壱岐編(29):豊... >>