「新・現代歴史学の名著」

 「新・現代歴史学の名著 普遍から多様へ」(樺山紘一編著 中公新書2050)読了。歴史を学び続けたい市井のしょぼい一歴史学徒として、今、歴史学がどのような状況にあるのかぜひとも知りたいところです。冷戦体制の終焉とグローバル化の加速という、これまでのパラダイムが解体された状況で、志の高い歴史学者たちは、どのような強靭な思考と批判を行っているのでしょう。できれば素人にも手軽に手が出せる新書でそのような本がないかなと思っていたところ、渡りに舟、あぶさんに内角球、本書にめぐりあえました。碩学・樺山紘一氏の編集により、現代の歴史学を代表する名著がそろいぶみです。ラインナップは、『中国の科学と文明』(ニーダム)、『文明の生態史観』(梅棹忠夫)、『ワイマール文化』(ゲイ)、『近代世界システム』(ウォーラーステイン)、『モンタイユー』(ル・ロワ・ラデュリ)、『チーズとうじ虫』(ギンズブルグ)、『もうひとつの中世のために』(ル・ゴフ)、『オリエンタリズム』(サイード)、『無縁・公界・楽』『日本中世の非農業民と天皇』(網野善彦)、『定本 想像の共同体』(アンダーソン)、『イングランド社会史』(ブリッグズ)、『記憶の場』(ノラ編)、『ファロスの王国』(クールズ)、『帝国主義と工業化 1415~1974』(オブライエン)、『歴史と啓蒙』(コッカ)、『1917年のロシア革命』(メドヴェージェフ)、『敗北を抱きしめて』(ダワー)、『近代移行期の人口と歴史』『近代移行期の家族と歴史』(速水融編著)。十全に咀嚼できたとはお世辞にも言えませんが既読は六冊、現在読書中が一冊、書名を聞いたことがあるもの三冊、まったく未知のもの十冊。それぞれの書を第一線の研究者が担当して、著者のプロフィールや研究活動についての概説、そして当該書の要約とそれに対するコメントが手際よく述べられているので、たいへん勉強になります。地道、挑発、斬新、さまざまなスタンスの違いはありますが、歴史に真摯に向き合い、今を理解しようとし、未来に思いを馳せる姿勢は共通しています。その戦線に加わることはとても無理なので、せめて兵站だけでも手伝いたく、何冊かを購入する予定です。ただ故サイード氏言うところの"長く連続する思考と分析"を、匍匐前進しながらも身につけようとする姿勢は持ちたいものです。
 『オリエンタリズム』における私の考えは、…私たちを好戦的で集団的なアイデンティティへと導くレッテル貼りや敵愾心むきだしの論争に閉じ込める論争的で思考停止の短気な憤激にかえて、争いの場を解きほぐし、長く連続する思考と分析を導くような人文主義的な批評を用いることである。(p.116)
 ああデシデリウス・エラスムスが掲げた炬火は時空を超えてここまで受け継がれていました。
by sabasaba13 | 2011-02-18 06:19 | | Comments(0)
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