衝撃でした。先日の「美の巨人たち」(テレビ東京土曜日午後十時)で初めて知った、谷中安規(たになか やすのり)の版画の印象です。大胆かつユーモラスで骨太な線とフォルムで描かれた、幻想とも夢とも悪夢ともつかぬ摩訶不思議で超現実的な空間。時には静謐に、時には騒々しく、裸体の男女や幼児や蝶や巨大な眼や望遠鏡や自転車が、画面にあふれています。どこか懐かしいけれど、心の暗部をざっくりと抉り取られて眼前にさらけだされたような気持ち。
谷中安規。1897(明治30)年、奈良長谷寺の門前町に生まれ、25歳で版画を志し、以後放浪と貧窮のなかで独自の版画をつくりつづけます。生米とニンニクとカボチャを食べながら… 1946(昭和21)年、栄養失調によって餓死。番組で紹介された彼の言葉、「ぼくに就職をすすめることは、間接殺人です」が心に残ります。内田百閒が彼を敬愛し、「風船画伯」と名づけ、装丁と挿絵を彼に依頼してつくった絵本が『王様の背中』。これはぜひ読んでみたい! どうやら絶版のようなので、さっそく古本屋さんに注文しました。
インターネットで調べると、昨年松濤美術館や宇都宮美術館で彼の展覧会が開催されていたのですね。悔しい、見たかった。今年の6月4日から、柏わたくし美術館で20点ほど彼の版画が展示されるようなので、行くつもりです。それにしても、これまで彼の存在をしらなかった己の未熟さを痛感するとともに、まだまだ見たことも聞いたこともないない素晴らしい画家や音楽家がいるかと思うと嬉しくなります。人生は生きるに値します。
「風船画伯 谷中安規」というHPがありましたので、紹介します。
http://homepage2.nifty.com/taninaka/taninaka.htm