奈良編(3):萬葉植物園(10.3)

 春日大社はもう何度も訪れているのでスキップし、参道の途中にあった萬葉植物園(春日大社神苑)に入ってみることにしました。万葉集に詠まれている花木を中心に、約300種類の植物があるそうです。受付の方に訊ねると、梅はそろそろ終わり、桜は咲き始め、いわゆる端境期にあたっているとのこと。それほど広くはないのですが、池あり、なだらかなアップ・ダウンありの、清々しい植物園です。見ごろの菜の花、名残りの梅を愛でながら池のほとりに出ると、一袋100円の鯉の餌がありました。
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 鯉への餌やりという共通の趣味で結ばれたわれら二人、さっそく購入し池に近づくと… ずーら      ずーら      ずーらずーらずらずらずら、と"JAWS"のテーマ曲が脳裡に鳴り響いてきました。飢渇した無数の鯉たちが、餌の気配を察したのかじょじょに岸辺に押し寄せてきます。餌をまくと、そこは阿鼻叫喚の地獄絵図。互いを押しのけあうように群がり身を乗り上げ、水面に開いたいくつもの小さなブラックホールに餌が吸い込まれていきます。全国127人の飢えた鯉フリークよ、ここ萬葉植物園に来たれ。私見では、ここと渉成園(京都)と清澄庭園(東京)が「日本三大飢えた鯉のいる池」ですね。
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 池中央の神域(中ノ島)には、臥竜のイチイガシがあります。強風のため倒れた幹が、その後起き上がるように天空をめざして伸び枝を広げています。その姿はまさしく臥竜、荘厳なたたずまいに息を呑みしばし立ち竦んでしまいました。さきほどの鯉といい、このイチイガシといい、"生きる"という営為の逞しさと厳しさをあらためて痛感。もしブランコがあったら、こぎながら♪命短し恋せよ乙女♪と口ずさんでいたろうなあ。満開の三椏の花や(はじめて見ました)、緑なす苔を堪能しながら藤の園に歩いていくと、八分咲きの可憐な三波川冬桜に出会えました。
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 そして椿園ではさまざまな品種の椿の花を見ることができます。私が一番気に入ったのは「一休」、その凛とした清楚な姿には一目惚れです。ここにも、倒れながらも天高く伸びようとする坂本竜馬のような樹がありました。
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 沈丁花の香りに幼き日々の思い出を呼び覚まされ、苔の上に点々と散る赤い椿を愛でていると、出口が見えてきました。集合時間五分前、ちょうどいい頃合いです。
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 すぐ近くには鹿せんべいを売る売店があり、その前には新宿歌舞伎町に屯する覚醒剤売人のように鹿が数頭ものほしげにうろうろしています。ここで名案、知人へのお土産に鹿せんべいはいかが。絶対に東京では売っていないよと提案するも、山ノ神は即却下。
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 そして集合時刻一分前に到着すると、もうツァーのみなさんは全員お揃いでした。うん素晴らしい、団体旅行はやはりこうでなくちゃ。そしてバスは出発、車窓から奈良公園を眺めていると、鹿せんべいを買った人に鹿たちがしつこくつきまとっています。その姿を見ていると、面白うてやがて哀しくなってきます。彼ら/彼女らも生きるために必死なんですよね。
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 そして名建築との世評高い奈良県庁の脇を通りすぎました。竣工は1965年、設計は片山光生、モダニズム建築の傑作で、屋上からの眺望が素晴らしいとのこと、いつかじっくりと訪問してみたいものです。

 本日の四枚です。
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by sabasaba13 | 2011-03-30 07:33 | 近畿 | Comments(0)
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