熊野古道編(8):乳岩(10.3)

 さあいよいよ奥熊野、霊域に入ります。ガイドブックによると、滝尻王子から近露までは距離にして約13km、所要時間は約5時間20分とのこと。現在の時刻は午前七時半ちょっと過ぎ、予報によると夕方ころには天気が大荒れになるそうなので、午後一時か二時には宿に到着できるよう努力しましょう。なお道標はしっかりと整備されていて、道に迷う心配はなさそうです。お賽銭を500円おさめて、道中の安全を滝尻王子に祈願…いやいや「神仏を祟びて神仏を頼らず」、ここは「我に一難二苦を与えよ」と呟き一礼して先へと進みましょう。滝尻王子の左手から裏へまわりこむと、胸を衝くような急峻な山道が眼前に立ち塞がっています。おおさっそく一難を与えてくれるとはさすがは滝尻王子、でもこやつをクリアすれば後は二苦ですむな、と天動説的に得心してしまいましたが、これがルノアールのココアのように甘かったことは後日思い知らされます。それでは覚悟を決めてアタックしましょう。ガイドブックによると、滝尻王子から展望台まで距離にして約1.6km、標高差約200mを一気に上ることになります。前掲書の「熊野古道」(小山靖憲 岩波新書665)によると、藤原宗忠が「中右記」天仁二年条の中で、この急坂を「先ず滝上坂を攀じ登り、十五町許り巌畔を踏み漸く行き登る。已に手を立つる如し。誠に身力尽き了んぬ」と記しているそうですが(p.37)、すぐに身をもって実感いたしました。なお同書によると、ここは本来の古道ではなく、神社の右脇にもっと険しい坂があったそうです(p.145)。木の根が顔を出し石がそこかしこにころがっている上り坂、すぐに息が上がってしまいました。ぜいぜい すぐに一休みして給水。そうだ、せっかく買ったのだからハイキング用ステッキを使ってみよう。するすると伸ばしたステッキをつきながら、坂を上ると、あら不思議。足への負担が減るし、バランスもとりやすい。格段に上りやすくなりました。やはり"宿のおやじの意見と茄子の花は千に一つの無駄もない"、持ってきてよかった。
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 青息吐息、十三分ほどで胎内くぐりに到着です。折り重なる巨岩の下の方に狭い隙間があり、くぐりぬけることができました。解説板によると、土地の人は滝尻王子に参拝し、竹杖をもってこの山路をのぼり、この岩穴をくぐって山上にあった亀石という石塔に参ったそうです。女性がくぐれば安産という俗信もあるとのこと。
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 そのすこし先にあるのが乳岩、巨岩がおおいかぶさり、下に座って雨宿りができそうなくらいの空間があります。解説板によると、藤原秀衡が夫人同伴で熊野参りに来た時に彼女が急に産気づき、ここで出産したという伝説があるそうです。夫妻は赤子をここに残して(なぜ?)熊野に向かい、幼子は岩から滴り落ちる乳(?)を飲み、狼に守られて無事だったので奥州に連れて帰ったとか。いろいろと疑問がわく不思議な伝承ですね。「狼に育てられた幼子」伝説なんて、南方熊楠の興味を引きそうです、何かそれに関した随筆を書いているかもしれません。と思ったら、数日後に読んだ「南方熊楠随筆集」(益田勝実編 ちくま学芸文庫)に「狼が人の子を育つること」(p.290)という随筆がちゃんと載っていました。
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 本日の一枚です。
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by sabasaba13 | 2011-04-21 06:18 | 近畿 | Comments(0)
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