熊野古道編(32):小口(10.3)

 午前六時ちょっと前に目覚め、祈るような気持ちでカーテンを開けると…どんよりとした曇天…いや、霧雨が降っている… 変な呪文を唱えるんじゃなかった… 大本営だったら「天気晴朗」と発表するところでしょうが、現実から目を背けてはいけない。雨は雨、ボートはボート、○ァッ○は○ァッ○です。blueな気持ちで顔を洗い歯を磨き、朝食をとりました。給仕をしてくれた係の女性が、「石畳が滑りやすいので気をつけてください」と励ましてくれました。合点承知之助、みなさんの思いを乗せて歩きましょう。「そういえば去年でしたっけ…」「はあ」「大学時代に山岳部だった方が、意気揚々と30kgの荷物を背負って大雲取越を縦走していたのですが…」「はあ」「濡れた石畳で足を滑らして谷底に滑落し…」「はあ」「二日間身動きできず…」「はあ」「やっとのことで前歯が折れた血だらけの姿でここに辿り着きましたっけ」「はあ」「そうそう足を滑らして転び尾てい骨を骨折したフランス人女性もいました」「はあ」もう気分はdark blueです。隣で食事をされていた初老の男性も、この話を聞いて、表情をこわばらせていました。彼は、これから小雲取越を歩き本宮へと向かう予定だそうです。部屋に戻り沈思黙考、今だったら大雲取越をカットしてバスで那智か新宮に向かうことも可能です、たぶん。ああどうしよう、思いは千々に乱れます。こういう時に、決断を促してくれるのが言葉の力。ふと脳裏をよぎったのは、映画『がんばれベア―ズ』の中で監督役のウォルター・マッソーが言った言葉でした。「あきらめるな。一度あきらめるとそれが習慣になる」 あっもう一つ思い浮かんだ。漫画『バガボンド』(井上雄彦)の中で、本阿弥光悦の御母堂が武蔵に言った言葉です。「嫌だったら逃げてもいいのよ」 また浮かんだ。漫画『ピーナッツ』(チャールズ・M・シュルツ)の中でライナス・ヴァン・ペルトが言った言葉です。「僕は困難で出会ったらよけることにしてるんだ。よけきれないほど大きい困難なんてないよ」 ああああどないしよ。ますます迷ってしまった。民主主義の原則から言えば、一対二で、中止すべきでしょうが、少数意見も尊重すべきだし… 沈思黙考… 個人的にウォルター・マッソーのファンなので、彼の言に従うことにしました。決行!
 宿の方が車で送ってくれるということですので、7:00少し前に玄関へ。頼んでおいた弁当を受け取り、宿代 9500円を支払いました。さきほどの方と一緒に乗り込み、まずは彼が小雲取越の入口で下車、健闘を祈りつつお別れしました。そしてそのすこし先にある大雲取越の入口で私も下車。宿の方に丁重にお礼を言うと、車は靄の中へと走り去っていきました。小雨のそぼ降る道端に一人ぽつねんと取り残され、なんとも心細い気分です。もう観念して前に進むしかありません、幸い霧のような雨なので、屋久島に行く時に買ったセパレーツ雨具の上着と帽子だけですみそうです…今のところは。折りたたんであったハイキングステッキを伸ばし、靴の紐を締めなおし、煙草を一服し、水を少々飲み、荷物を背負い、さあ出発しますか。
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by sabasaba13 | 2011-05-26 06:17 | 近畿 | Comments(0)
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