熊野古道編(36):石倉峠(10.3)

 さて路傍の石に腰をおろし、水を飲み、紫煙をくゆらし、これからの行程を地図で確認し、出発。ここまでくれば熊野古道踏破はもう終わったも同然です。すると湘北高校籠球部キャプテン赤木剛憲の怒号が、15個のexclamation mark とともに、耳朶に響きました。「バカタレがもう終わったとでも思ってるのか!! 相手は世界遺産になるほどの道なんだぞ!! ナメてんじゃねえ!! ここは熊野古道なんだ!! 絶対に油断するな!! いいか!! 一瞬たりとも油断するな!!!」 ビクッ わかってるぜ、ゴリ。「徒然草」第百九段、高名の木のぼりが「目くるめき、枝あやふきほどは、おのれが恐れ侍れば申さず。あやまちは、安き所になりて、必ず仕る事に候」とおっしゃっていましたっけ。油断大敵です。足を踏みしめて慎重に石畳の坂をくだっていくと、やがて渓流に沿う道となります。そして林道と合流、ここには長塚節の歌碑がありました。 「虎杖のおどろが下をゆく水の たぎつ速瀬をむすひてのみつ」 虎杖(いたどり)とは、タデ科の多年生植物で、茎を折るとポコッと音が鳴るそうです。
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 舗装されていない林道には水が幾筋も流れており、雨が降り続いたら濁流になることが想像されました。すこし歩くとふたたび道は山中へと入り、急なのぼりとなります。岩走る垂水、滴をたくわえて生き生きと輝く苔、あらためて多雨地帯であることを思い知らされます。
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 するとこの道で、今日はじめて人とすれちがいました。カメラを片手に慣れた足取りですたすたとおりてくる初老の男性で、挨拶を交わすと「今日は人に出会うとも思いもしませんでした」とおっしゃいました。そして石倉峠に到着、越前峠からは一時間弱かかりました。こちらには「紀伊のくに大雲取の峰こえに 一足ごとにわが汗はおつ」という斎藤茂吉の歌碑がありました。そして「よく頑張ったね」とにこやかに微笑む路傍の石仏、そして「でもこれからがきついよ」とぼそっと呟いたような気がしました。
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 その言の通り、実はここからの下りが本日一番の難所でした。急な傾斜、大石中石小石を不規則にちりばめた石畳、もちろんそれらは雨に濡れ苔が生えています。うん、もし滑落して前歯を折って血だるまになるとしたらここだな、これは褌を締めてかからんと。足元を凝視し、的確なポイントにハイキングステッキをつきながら、できるだけ平らで苔の生えていないところを見つけ慎重に足をおろして足場を確保する。一瞬でも躊躇したら足をおろすのをやめ、今の場所でステイする。とにかく気持ちを集中、「一服したいな」とか「ベンヴェヌートのボロネーゼを食べたいな」とかいった次から次へとわきおこる雑念・妄想をふりはらい、蝸牛の如く一歩一歩足を進めます。そして二十分ほどでようやく坂は終わりました。私にしてはなかなかの集中力であったと自画自賛。でもこうした石を積み上げて、有数の豪雨地帯の峠道を守ってきた先人の営みには頭が下がります。
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 本日の九枚です。
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by sabasaba13 | 2011-05-30 06:23 | 近畿 | Comments(0)
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