京都・奈良錦秋編(2):皇居(10.12)

 そして二連アーチの二重に到着、♪ひさしぶりに手を引いて♪と歌いながら写真におさめました。ところが、何気なく今インターネットで調べたところ、この橋は二重橋ではないのですね。この奥にある「正門鉄橋」がほんとうの二重橋、かつて橋桁が上下二段に架けられていたためそう呼ばれたそうです。よく誤認される手前の橋の正式名称は「正門石橋」だそうです。ま、いずれにしても哀しいことに、日常的には渡ることはできません。それにしてもこの間、胃の腑に重く黒い異物感をずっと感じ続けていました。まばらな人影、あちらこちらで眼を光らせる皇宮警察。
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 皇居に準ずる聖なる空間、よって天皇制を肯定しない者は実力をもって芟除するという、誰かの(誰?)強烈な意思を身に沁みるように感じます。かつて「人民広場」と呼ばれた俤は毫もありません。やれやれ、なんでまたこんなに厳重に警備をする必要があるのでしょうか、日本には皇室を害せんとする人がそれほど多いのでしょうか。いや、これは皇室の尊厳を日々人為的に再生産するための装置ではないでしょうか。厳重な警備をすることによって、中にいる方々はその警備に値する存在だと思わせる。つまりその尊厳は私たちが自然に感じるものではなくて、さまざまな装置や集団によって人為的につくりだされたものである。仮説ですけれどね。私が畏敬する坂口安吾は「続堕落論」の中でこう喝破されています。(『堕落論・日本文化私観』 岩波文庫) 長文ですが、今でも刺激的な内容なので引用しましょう。
 いまだに代議士諸公は天皇制について皇室の尊厳などと馬鹿げきったことを言い、大騒ぎをしている。天皇制というものは日本歴史を貫く一つの制度ではあったけれども、天皇の尊厳というものは常に利用者の道具にすぎず、真に実在したためしはなかった。
 藤原氏や将軍家にとって何がために天皇制が必要であったか。何が故に彼等自身が最高の主権を握らなかったか。それは彼等が自ら主権を握るよりも、天皇制が都合がよかったからで、彼らは自分自身が天下に号令するよりも、天皇に号令させ、自分が先ずまっさきにその号令に服従してみせることによって号令が更によく行きわたることを心得ていた。その天皇の号令とは天皇自身の意志ではなく、実は彼等の号令であり、彼等は自分の欲するところを天皇の名に於て行い、自分が先ずまっさきにその号令に服してみせる、自分が天皇に服す範を人民に押しつけることによって、自分の号令を押しつけるのである。
 自分自らを神と称し絶対の尊厳を人民に要求することは不可能だ。だが、自分が天皇にぬかずくことによって天皇を神たらしめ、それを人民に押しつけることは可能なのである。そこで彼等は天皇の擁立を自分勝手にやりながら、天皇の前にぬかずき、自分がぬかずくことによって天皇の尊厳を人民に強要し、その尊厳を利用して号令していた。
 それは遠い歴史の藤原氏や武家のみの物語ではないのだ。見給え。この戦争がそうではないか。実際天皇は知らないのだ。命令してはいないのだ。ただ軍人の意志である。満洲の一角で事変の火の手があがったという。華北の一角で火の手が切られたという。甚しい哉、総理大臣までその実相を告げ知らされていない。何たる軍部の専断横行であるか。しかもその軍人たるや、かくの如くに天皇をないがしろにし、根柢的に天皇を冒涜しながら、盲目的に天皇を崇拝しているのである。ナンセンス! ああナンセンス極まれり。しかもこれが日本歴史を一貫する天皇制の真実の相であり、日本史の偽らざる実体なのである。
 藤原氏の昔から、最も天皇を冒涜する者が最も天皇を崇拝していた。彼等は真に骨の髄から盲目的に崇拝し、同時に天皇をもてあそび、我が身の便利の道具とし、冒涜の限りをつくしていた。現代に至るまで、そして、現在も尚、代議士諸公は天皇の尊厳を云々し、国民は又、概ねそれを支持している。(p.235~6)
 "天皇は知らないのだ。命令をしてはいないのだ"という点に関しては留保しますが、鋭い考察だと思います。先ほど述べた"誰か"とは、天皇の尊厳を利用して己の権力を振るおうとする方々でした。もちろん戦前のような露骨なかたちでの利用は今のところなさそうですが、いつかその日が来るまで大切に大切に温存しておこうとしているのかもしれません。なにせ、彼らが利用できる尊厳は、天皇制しかないのですから。かつてロラン・バルトが『表徴の帝国』(ちくま学芸文庫)の中で、皇居を"東京の空虚なる中心"と述べたそうですが、いやいや、この空間にはいろいろな意味がみっちりとつまっています。

 本日の一枚です。
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by sabasaba13 | 2012-04-11 06:17 | 東京 | Comments(0)
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