京都・奈良錦秋編(12):松花堂庭園(10.12)

 ここから十分ほどで次なる紅葉の隠れ名所・松花堂庭園に到着です。江戸時代初期の僧侶で文化人であった松花堂昭乗がその晩年、石清水八幡宮のある男山の東麓に構えた草庵が、明治初年の神仏分離に伴ってここに移築されたそうです。寡聞して知らなかったのですが、この方は近衛信尹・本阿弥光悦と共に寛永の三筆と称せられた書の名人、そして茶の湯を通して小堀遠州・沢庵和尚・石川丈山といった文化人とも交流を持っていたそうです。へえー。それではさっそくお庭を拝見しましょう。入口の近くには吉井勇の歌碑がありました。"昭乗といへる隠者の住みし盧(いほ) 近くにあるをうれしみて寝る" 彼は敗戦直後の二年十カ月ほどをここ八幡で暮らし、後に「人生行路にようやく光明が射しはじめてきた時期」と回想しているとのことです。
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 鑓水に沿って植えられた苅込、それに沿って苑路を進みます。おっ大好きな鯉の餌[※私が食べるわけではありませんが(ぼけ)←しっとるわい(つっこみ)]を売っていました。さっそく購入して池にばらまくと、鯉たちが集まってきて酒池肉林の大騒ぎ。ういやつじゃ。
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 その先では見事な竹林や綺麗に色づいた紅葉が水に映えて美しいこと。鹿おどしや洒落た意匠の敷石・垣など、風雅な趣を醸し出す小道具にも事欠きません。
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 そして竹隠・梅隠(宗旦好)・松隠(閑雲軒)という三つの茶席が点在していましたが、露地がないのが残念。なお梅隠には水琴窟がありました。
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 ユニークなのは、この茶席を中心に、いろいろな種類の垣が、名称のプレートと共にしつらえてあることです。萩光悦垣、竹枝穂垣、建仁寺垣、萩穂垣、矢止め垣、萩小松明垣、寒竹あやめ垣… いやあ、先人たちの美意識と創意には恐れ入谷の鬼子母神、びっくり下谷の広徳寺です。
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 そして菱形の小粋な敷石が導く内園へ、こちらには松花堂昭乗が1637(寛永14) に建てた草庵茶室「松花堂」と、小早川秀秋の寄進とも伝えられる書院、そしてお庭がありますが、残念ながら写真の撮影は禁止です。なぜ、なんだろう? どおして、なんだろう? 入園料を支払わせた以上、管理者には説明責任(accountability)があると思いますが。その近くには「砧の手水鉢」がありました。1705(宝永2)年、天下の豪商・淀屋辰五郎が闕所(家財の没収)となりましたが、六年後に恩赦によって八幡の山林300石が淀屋に返還され、辰五郎は八幡柴座の地に居を構えました。その屋敷には、男山中腹から邸の手水鉢に水を引き、その落差を利用して、手水鉢の中で踊るコブシ大の石の音を楽しんだといいます。この音が洗濯に使う砧を打つのによく似ていたことから「砧の手水鉢」と呼ばれたそうです。なお、辰五郎は33歳(※諸説あり)の若さでこの世を去りました。なお処罰の理由は、淀屋から借りた莫大な借金に苦しむ諸大名を救おうとした幕府が、倹約令違反という口実のもとに淀屋を取りつぶしたものと考えられています。なるほどねえ、幕末においてブルジョワジーたちが、国家権力によって営業活動と利殖の自由・権利が保護されるのを期待して、明治新政権を支持したのもわかるような気がします。そう考えると、一見非道な措置に思えますが、"モラル・エコノミー"的な一面があったととらえるのは穿ちすぎかな。
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 本日の六枚です。
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by sabasaba13 | 2012-04-22 05:55 | 京都 | Comments(0)
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