「アメリカ帝国の悲劇」(チャルマーズ・ジョンソン 集英社)読了。「叡智の断片」(池澤夏樹 集英社インターナショナル577)より、アメリカに関する箴言を二つ紹介します。「アメリカとは、野蛮から退廃に一足飛びして、その途中にあったはずの文明をかすりもしなかった国だ。(ジョン・オハラ)」「アメリカは、狭い部屋に入れられた大きな人なつっこい犬に似ている。尻尾を振るたびに椅子が倒れる。(アーノルド・トインビー)」 後者の表現を借りれば、世界中の椅子がアメリカによってひっくり返されているのは事実だと思います。詳細については、以前に掲載した「アメリカの国家犯罪全書」(ウィリアム・ブルム著 作品社)の書評をご覧ください。そしてそれが善意による政策の結果、たまたまそうなってしまったのか、それとも退廃的な外交政策によって意図的になされたものなのか。本書は、後者の立場から、アメリカの軍国主義と、その物理的顕現である軍事基地という切り口でその外交政策を鋭く告発し批判する好著です。まず、著者は、アメリカを"帝国"と捉えます。その理由は、世界中に自国の軍隊を展開し、他国の犠牲をかえりみずに資本と市場の力で思いどおりに世界経済を統合しようとしているからです。ただし、他国の領土を併合するのではなく、その領土のなかに排他的な軍事地帯をもうける(ときにはたんに借り上げる)、基地の帝国を作り上げたのがその特徴であると指摘されています。(p.34) それでは、世界中に展開するアメリカ軍の任務とは何か? 著者はこうまとめられています。
第一に、他国に対して絶対の軍事的優勢を維持すること。この任務には、帝国の治安を維持し、帝国の一片たりとも鎖から逃げないようにすることもふくまれる。第二に、民間人であろうが同盟国であろうが敵であろうが見境なく、その通信を傍受すること。これはしばしばあきらかに、政府の技術力をもってすればプライバシーのいかなる領域も不可侵ではないことをしめすためだけに行なわれている。第三に、できるだけ多くの石油資源を支配しようとすること。これは、化石燃料に対するアメリカの飽くなき欲求にこたえると同時に、その支配を石油への依存度がもっとも高い地域との交渉の切り札として使うためである。第四に、軍産複合体に仕事と収入を提供すること(たとえば、ハリバートンがキャンプ・ボンドスティールとモンティスを建設、運営することで得た途方もない利益のように)。そして最後に、軍人とその家族が快適に暮らし、海外で勤務するあいだはじゅうぶんに楽しめるようにすること。(p.196)なるほどねえ、最後の指摘は卓見ですね。言われてみれば当たり前のことですが、気づきませんでした。著者は、沖縄のアメリカ軍将校と兵士が"思いやり予算"を使って、いかにリゾート気分を満喫しているか、詳細な実例とともに紹介されています。 また経済面における外交政策では、第三世界諸国の独立性を弱めて、先進資本主義国の財布にもっと依存するようにさせ、豊かな国々と対等に交渉できる勢力圏を自分たちで組織させないようにすることをめざしていると指摘されています。(p.338) 日本に関する叙述もありますので、三つほど紹介しておきましょう。 たとえば、新植民地主義的な支配はかならずしも経済的なものである必要はない。用心棒代をせびりとる国際的なゆすり行為にもとづく場合もありうる-相互防衛協定や軍事顧問団、しばしば定義があいまいであったり、誇張されていたり、または実際には存在しなかったりする脅威に対する「防衛」の名目で外国に駐留する軍隊などによって。この取り決めによって「衛星国」-外国との関係や軍備が帝国主義国家を中心に動いている、表向きは独立した国家-が作りだされる。冷戦時代に旧ソ連の衛星国だった東欧の国々や、アメリカの衛星国だった東アジアの国々がそうだった。ある時期、東アジアには台湾やフィリピン、南ベトナム、タイといったアメリカの衛星国があったが、いまではおおむね日本と韓国の二カ国に縮小している。(p.43)さて、ジョンソン氏は、こうした外交政策を有無を言わさずに実行するため、アメリカ政府による専制的な政治がはびこっていることに深い憂いを感じて「アメリカの悲劇」というタイトルをつけられたのでしょう。最後に、トーマス・ジェファーソンの古い警告を挙げられています。これは私たちも、いや私たちこそ、肝に銘じなければなりません。 政府が人民を恐れるときには自由がある。人民が政府を恐れるときには専制がある。(p.383)
by sabasaba13
| 2012-09-04 06:13
| 本
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自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
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