甲斐路編(1):上野原(11.5)

 汝の現今に播く種は、やがて汝の収むべき未来となって現われべし。
            ~漱石ロンドン留学日記より(1901.3.21)~

 新緑の美しい季節となりました。というわけで待ちに待った黄金週間、山梨方面に一泊二日の小旅行を計画。まずは日本三大奇橋のひとつ猿橋と、昇仙峡と、身延山久遠寺を大きな柱としましょう。そして「文化遺産オンライン」で物色した近代化遺産を組み入れました。持参した本は「中国史(上)」(宮崎市定 岩波全書)です。

 新宿駅から中央本線に乗ってまず目指すは上野原。登山ブームだかウォーキングブームだかよくわかりませんが、山歩きの恰好をした老若男女善男善女の方々がけっこう乗っておられます。私? もちろんいつものように、すりきれたポロシャツにへたったジーンズにソールが磨滅しかかったテニスシューズに安物のテニス用リュックサックです。やっぱり旅の基本は、スリに狙われない服装をすることです。おおっ小股のきれあがった三十代前半らしき小粋な山ガールが、熊野古道踏破のため私が以前に購入したのと同じドイターのリュックサックを背負って降りていくぞ。袖触れ合うも他生の縁、「お嬢さん!」と声をかけようとした寸前に無情にもドアが閉まってしまいました。ぷしゅう やれやれ♪Everything Happens To Me♪ 午前八時半ごろ、列車は上野原駅に到着、山の斜面につくられているので、猫の額のような駅前に出ると中心街行きのバスが待機していました。
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 これ幸いと乗込み、五分ほどで旧上野原宿に到着です。お目当ては、「大正館」という古い映画館。印刷して持参したマピオンの地図を片手に裏道に入ると…ありました。装飾も少なくシャープな印象のファサード中央には、洒落たリボン・ウィンドウがしつらえてあります。上部の円形突出部もいいアクセントになっていますね。ただいかんせん、保存状態が悪く、今にも倒壊しそうです。現在は人形店の倉庫として使用されているそうですが、山梨県内に残る唯一の大正期の映画館、ぜひとも修復した上での保存を望みます。
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 つらつら思うに、映画館・学校・銭湯は、その街で暮らした人々のいろいろな思い出が詰まっている場所です。私も、初めて見た映画「サンダ対ガイラ」を上映していた東京都墨田区某所の映画館のシートの色や感触や匂いを…忘れた。ま、それはともかく、「思い出は人間を救う」と言ったのはドストエフスキーでしたっけ、さまざまな人を救ってくれるであろう思い出の器、そうした建築は是非とも残してほしいものです。そう考えると、大切な思い出の場所すべてを放射能で汚染してしまった東京電力、および陰に陽にその手助けをしてきた政治家・官僚・学者・メディア・裁判官に対する瞋恚の炎が燃えさかります。

 本日の一枚です。
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by sabasaba13 | 2012-09-21 06:16 | 中部 | Comments(0)
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