ネステレンコ所長の視察

 拙ブログで何度も言及・紹介しております、気概あるフォトジャーナリズム月刊誌「DAYS JAPAN」(2012.12)に、「ベラルーシ、ベラルド研究所所長 福島を初視察」というたいへん重要な記事が掲載されていました。同研究所は、チェルノブイリ事故後、ベラルーシ科学アカデミー研究所が当時の政治環境など様々な圧力により閉鎖され、その後、国から独立した民間の放射能研究機関として立ち上がったものです。その所長であるアレクセイ・ネステレンコ氏が今年の十月に来日し、福島市(福島駅~渡利地区、花見山)~伊達市(小国地区)~飯舘村を視察しました。以下、小生の文責による要約で、「」内はネステレンコ氏の言葉です。
 氏はこの視察の間に、何度も絶句されたそうです。「想像以上に汚染が酷い…最大でも1μSV/h程度だと思っていた」 (なおこの値は東京や千葉でも出ています) 小国地区では、生徒が授業を受けている学校の近くで27μSV/hを検出し、彼は何度も何度も首をふり、母親たちに「なぜ、子どもたちのために裁判を起こさないのか?」と問いました。そして「人が住んでいるところなのに線量が多すぎる」「日本は適切な汚染地図が無い」「0.5μSV/h以上のところには子どもは住むべきではない」と何度もくりかえしたそうです。食品の測定についても、「もっと情報源を増やすべき。国の検査だけに頼るのではなく、研究機関、民間機関など複数で測定する体制がベスト。そして福島の食品だけでなく、他の地域でも測定すべきだ」「給食を一食丸ごと検査しても意味が無い。平均化され薄まってしまうから。何かが突出して汚染されていても混ぜてしまえばわからないのだ。汚染されたものを見つけ、それを取り除くような検査をしなければ」 なお、ベラルーシでは、事故後、汚染地域に住んでいる子どものために、できるだけ汚染されていない食品を摂取させる政策がとられ、朝食と昼食とおやつ、一日三回の給食を無料で支給したとのことです。氏曰く、「日本はベラルーシより豊かな国なのに、汚染地域の子どものために何をしているのだ?」
 避難できず、汚染地域に居住する人々に対して、行政は何ができるか。「特別にきれいな食品を提供すべき。基準値を大幅に下回る食品を優先的に提供する。そして、ベラルーシでは汚染地域に居住している人々は夏休みが長い。国の負担で、一年に一回は保養に行くのだ。子どもの場合は一年に二回が望ましい」 そしてこの視察で、いろいろな母親に会うたびに、ネステレンコ所長はこう伝えていたそうです。「落胆しないで。自分は強い人間だと信じて、子どもを守って。誰かが言う『安全』は信じないで、自分で責任を持って判断していってほしい」
 なお飯舘村をまわったとき、村の教育長に偶然出会い、次のように言われました。「許可がないのであればカメラをまわしたり、取材しないように…飯舘村に、最近グリーンピースのような環境テロリストが入り込んで困っている。勝手なことはしないでくれ」 ネステレンコ所長は「ベラルーシのように、日本にも報道の自由はないのか」と驚いていたそうです。

 積年、チェルノブイリ原発事故による放射能被害に真っ向から取り組んできた方だけに、その言は重いです。要するに、今、福島の子どもたちはきわめて危険な状況に直面しているということです。ところが、行政も政治家も本気で彼ら/彼女らを救おうとせず、メディアもこれを正確に伝えようとしていない。見殺しですね。衆議院総選挙に向けての選挙戦においても、「福島の子どもたちを救う」という公約を掲げている政党や候補者は見当たりません。私たちにとって、まず何よりも、子どもたちの命を救うのが最優先課題であるべきなのに。尖閣諸島問題や、税制改革や、景気浮揚策や、TPP交渉問題など、すべてペンディングとして、まず福島の子どもたちを救うのが政治家の最重要の責務であるべきなのに。

 この国の腐敗の深淵は底が知れないことをあらためて痛感し、目が眩み脚が竦みます。経済成長と企業の利益のために、子どもを見殺しにする国… もちろんその膝下に跪く気は毛頭ありませんが。
 カタ・ヒジはったら、ぷっつり、息切れがして、とても長続きはしないよ。日本は、そんなに簡単によくなる国じゃないんだ。(飯沼二郎)

by sabasaba13 | 2012-11-20 06:14 | 鶏肋 | Comments(0)
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