山形編(10):上山温泉(11.8)

 あるお宅の玄関先には、歌碑がありました。風流人ですね。須川沿いに歩いていると、対岸に古い蔵、そしてその向こうに上山城を遠望することができました。
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 透かしブロックを二つ撮影し、商店街にたどり着くと、それぞれの店先に浴衣を着せた等身大の紙人形が置いてあります。詳細はわかりませんが、「ゆかたの似合うまち」を観光の謳い文句にしているようです。ある商店には「中国の侵略を許さない 尖閣を守れ! 今こそ領土領海を守りぬく国民の決意を内外に示しゆるぎない警備体制を築こう!」というポスターが貼ってありました。
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 これはちょっと茶々と半畳を入れましょう。まあ領土が他国にどんどん奪われて東京ドームぐらいになったら、そりゃあ実際問題として困ります。この列島に住む私たちの暮らしが明確なかたちで脅かされたら、愛国心の薄い私だって反対します。しかし冷静に考えてみると、今、私たちを最も脅かしているのは中華人民共和国政府なのでしょうか。違うと思います。まずは文字通りの意味で日本を破滅させかねない核(原子力)発電所と六ヶ所村の再処理工場、そして権益に群がり私たちの幸せを一顧だにしない政官財複合体、それがつくりだした"格差社会"、労働者が事実上の無権利状態に置かれている"企業社会"、弱者同士を際限なく競い合わせる"競争原理主義"、住民と自然環境に多大な被害を与え、かつ"テロル"の標的になりかねない沖縄の米軍基地… こうした深刻な問題群に比べたら、尖閣諸島問題の占める位置は(私の中では)それほど大きなものではありません。もしかすると怯えうろたえる子羊たちの眼を、こうした国内の問題群から逸らすための策略かもしれませんね。そして中国側の挑発も同じ意図から行われているのかも。だとしたら、日本の民衆と中国の民衆がいがみ合うのは、両国の支配層の思う壺でしょう。
 そうこうしているうちに、かみのやま温泉駅に到着。コインロッカーから援助物資を取り出し、宿に電話をして迎えにきてもらいました。しばらくしてやってきた送迎車に乗り込み、市街地を走ること十分ほどで今夜の塒、新湯にある有馬館に到着です。フロントでチェックインをし、事前に連絡したように山ノ神が遅れて到着することを確認し、部屋に荷物を置いて、付近を散策することにしました。まずは宿から歩いて十分ほどのところにある春雨庵へ。ここは1629(寛永6)年に起きた紫衣事件によって、流刑とされた沢庵が居住した庵です。できたてのほやほやの江戸幕府は、朝廷の権威を利用するために秀忠の娘・和子を後水尾天皇に入内させるとともに、禁中並公家諸法度(1615)を制定するなど、その統制に細心の注意を払いました。さらに、幕府の許可なく天皇が高僧に"紫の僧衣"を与えとして、紫衣を取り上げ、抗議した沢庵らを処罰します。これが紫衣事件。以前から幕府に反発していた後水尾天皇はこれで怒髪天を衝き、幕府の制止も聞かずに、和子が産んだ明正天皇に譲位してしまいました。859年ぶりの女帝ですね。天皇に対する統制の難しさを痛感した幕府は以後、強引な統制をやめソフトな融和策をとることになります。例えば、修学院離宮造営に対する援助もその一環です。その結果、可哀相に東福門院和子は朝廷内において孤立を余儀なくされ、やがて"衣装狂い"にのめりこんでいきました。半年間に、約一億五千万円相当の着物を購入したというのですから、これはもう狂気に犯されていたのかもしれません。そしてその注文先が「雁金屋」、そう、尾形光琳の生家です。彼女が亡くなったのは1678年、その時光琳は二十歳です。薄幸の狂気が、一人の天才芸術家を育んだ…などと想像するのも歴史を知る喜びの一つです。それはさておき、沢庵は流刑先のここ上山では、藩主土岐頼行によってかなり優遇されていたようです。三年後に家光に赦免されて江戸に帰った後も、ここでの暮らしを語り草にしていたそうです。彼がここで詠んだ歌が解説板に記されていました。"花にぬる胡蝶の夢をさまさじとふる音もせぬ軒の春雨" なお沢庵が住職となった品川の東海寺に、頼行は春雨庵を模した塔頭を寄進しましたが、その改造のおりに長押と天井板などを譲り受け1955(昭和30)年に復元したのが、現在の春雨庵です。アンシンメトリックな洒落た萱葺き屋根が印象的な庵でした。その前には土岐氏の江戸上屋敷庭園にあったという土岐灯籠、「沢庵漬名称発祥の地」碑、そして沢庵和尚愛用の「山の井の水」がありました。
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 本日の二枚です。
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by sabasaba13 | 2012-12-04 06:19 | 東北 | Comments(0)
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