山形編(42):土門拳記念館(11.8)

 広々とした飯盛山公園の中をすこし歩くと、大きな池のほとりに白い端正な佇まいの記念館が見えてきました。さっそく入館してみましょう。
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 まずはスーパーニッポニカ(小学館)から、土門拳のプロフィールを紹介しましょう。
土門拳(1909―90) 写真家。山形県酒田生まれ。1916年(大正5)東京に移住。33年(昭和8)宮内幸太郎写真館の内弟子となるが、35年、名取洋之助の設立した日本工房に入社し、報道写真家としての道を歩む。39年国際文化振興会に入り、また初めての室生寺との出会いが仏像撮影の端緒となる。43年、雑誌『写真文化』掲載の「土門拳選集」と「人物写真集」によって第1回アルス写真文化賞受賞、写真家としての地位を確立した。第二次世界大戦後、雑誌『カメラ』を中心にしてアマチュアの指導も始める。その具体的手法として「絶対非演出の絶対スナップ」「カメラとモチーフの直結」を唱えて大きな影響を与え、木村伊兵衛とともに写真界の頂点にたった。代表作は、社会的な題材の『風貌』(1953)、『ヒロシマ』(1958)、『筑豊のこどもたち』(1960)、伝統文化の記録『古寺巡礼』全五巻(1963~75刊)、『女人高野室生寺』(1978)など。
 今期の展示は『ヒロシマ』と『古寺巡礼』でした。前者は、1957(昭和32)年にはじめて広島に行った土門が、原爆被害の深刻さに衝撃を受け、報道写真家としての使命感に駆られて撮った写真です。圧倒的な存在感とともに焼きつけられた被曝者の傷痕やケロイド、そして苦難にみちた暮らし。そして核兵器に対する静かな怒りと、その生贄とされた人々の尊厳への熱い思い。その迫力を前に、息を呑んで見つめることしかできませんでした。フォト・ジャーナリズムが窒息しつつある、現今の日本。この土門の志を受け継ぐ写真家はいったいどれくらいいるのでしょうか。寡聞にして『DAYS JAPAN』に集う方々しか思い浮かびません。社会的弱者を拡大再生産しつづけている"時代閉塞の現状"は、ここに起因しているのでしょうか。自民党・官僚・電力会社・大企業・学者の利権の犠牲となった人々を記録する『フクシマ』を世に問う気骨あるジャーナリストの登場を期待します。『古寺巡礼』は彼のライフ・ワーク、室生寺の撮影をきっかけに各地の諸寺諸仏を裂帛の気合をもって撮影した作品集です。薬師寺の高田好胤氏曰く、"撮影の亡者"。さまざまな構図やアングルを駆使して、仏像の本質に迫ろうとする鬼気あふれた写真の数々には圧倒されました。そして本館のもう一つの見どころは、イサム・ノグチ作の彫刻と中庭です。三方を建物に囲まれた中庭には、ゆるやかな段差がもうけられ、水が静かに池へと流れ落ちていきます。その中央から外れたところに屹立する彫刻が『土門さん』、一見、思わず男根を思い出してしまいました。土門拳もつ逞しいエナジーを直截的に表現したものと思います。なお『イサム・ノグチ 宿命の越境者 (下)』(ドウス昌代 講談社文庫)には次のような一文がありました。"土門と親しかった谷口吉郎の遺児で、父親と同じ道を歩む谷口吉生が設計した土門拳記念館は、酒田の山並みを背景に、簡潔にまとめた白壁の平屋である。高潔な第一印象のその記念館の前には、周辺の緑をうつす大きな人工池がひろがる。イサムはその中庭を担当した。なだらかな傾斜に数段の段差をつけて石床をしき、その全面に池へと落ちる水を流した。この【土門拳記念館】には、戦後を凝視して撮りつづけた写真家の姿を意味するリンガ型の石彫が足元を水に洗われながら、黙想するように立っている。(p.307)" また記念館のパンフレットも解説も紹介しておきましょう。"さらに私は建築に加えて、土門拳氏と親しい方々の親交が形として記念館の中に記憶されることを、設計の一部として意図した。彫刻家のイサム・ノグチ氏は、土門氏と親交があり、風貌という作品シリーズの中にもその肖像写真が登場する現代彫刻の世界的な第一人者である。ノグチ氏には中庭の彫刻をお願いし、何度も現地で打ち合わせをした当時のことがなつかしく思い出される" なお受付の方に訊ねたところ、併設されている石のベンチもイサム・ノグチ作だということです。
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 というわけで、土門拳とイサム・ノグチの作品を心ゆくまで堪能できました。素晴らしい美術館ですね。パンフレットに載っていた土門拳の言葉を紹介しましょう。 実物がそこにあるから、実物をもう何度も見ているから、写真はいらないと云われる写真では、情けない。
 実物がそこにあっても、実物を何度見ていても、実物以上に実物であり、何度見た以上に見せてくれる写真が、本当の写真というものである。
 写真は肉眼を越える。
 本日の四枚です。
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by sabasaba13 | 2013-01-17 06:15 | 東北 | Comments(0)
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