「人類と建築の歴史」

 「人類と建築の歴史」(藤森照信 ちくまプリマー新書012)読了。著者は、近代建築史の学者であるとともに、路上観察学会を主宰したり、自ら設計をしたり(天竜市の秋野不矩美術館)、種々の随筆を書いたりと、多彩な活動をされています。そのエネルギッシュな行動力と、奇抜な発想・ひらめきと、軽妙洒脱な文章には、常日頃感服しております。その氏が、人類の建築の歴史は「細長いアメ玉を紙で包んで両端をねじったような形」をしていると喝破したのが本書。原始にはほとんど世界共通であった建築が、古代・中世になると多様な形をとり、近代とともにヨーロッパ建築が世界中に浸透して各地の伝統建築が滅び、そして20世紀モダニズム(白い箱型+大きなガラス窓)によってヨーロッパ建築も固有性を失い、世界は再び一つになったという論旨です。なるほど、目からうろこが落ちてコンタクトレンズが入ったように、すっきりと建築の歴史を見通せます。凄い力業ですね。
 大胆な歴史の把握もさることながら、細部の叙述が大変面白く参考になりました。例えば、磨製石器が登場した意味。これまで、農耕・牧畜が始まり、打製石器をきれいに磨き上げる時間的余裕ができたのかな、などと漠然と考えていました。とんでもない! 磨製石器とは要するに石の斧で、これによって人類は巨木を伐り倒し自由自在に加工できるようになったのです。住居・集落の建設や、舟による文化の伝播などを考えると、これは歴史を変える大発明なのですね。さらに長期の狩猟から自分の集落・家に戻った時に、それが変わっていなと感じることから、人間独自の「懐かしい」という感情が生まれたと述べられています。「人間は自分というものの時間的連続性を、建物や集落の光景で無意識のうちに確認しているのではないか。」
 また1893年のシカゴ万博で日本政府が出品した仕切りが少なく開放的な和風建築に、26歳のフランク・ロイド・ライトが大きな刺激を受けます。壁に閉ざされた閉鎖的なヨーロッパ建築とは違う原理に影響を受け、仕切りが少ない間取り、大きな窓、水平に伸びる外観を特徴とする建築の図面集を出版します(1910)。これに衝撃を受けたグロピウスやミースらが、バウハウスを舞台にモダニズム建築を完成させるわけですね。そしてバウハウス校長室を見て刺激を受けた堀口捨巳が日本にモダニズム建築をもたらす… 浮世絵とジャポニズムのような動きが、建築の世界でもあったわけですね。スリリングです。自由学園明日館の見方が変わってきそう。
 
by sabasaba13 | 2005-06-05 07:50 | | Comments(0)
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