足尾鉱毒事件編(15):旧谷中村(11.11)

 まずは小さな丘の上にある雷電神社跡へ。守る会が設置した解説板には次のように記してありました。
 雷電神社は、旧谷中村のほぼ中央の丘の上に鎮座し、谷中村民の深く崇敬した社である。
 足尾銅山鉱毒事件の折、県当局の谷中村強制買収反対運動に生命を賭して戦った田中正造翁もこの神社をこよなく愛し、この社殿で村民青壮年と共に寝食を忘れて談じ或る時は難戦苦斗する村民を慰め激励した処でもあった。
 田中翁は病気重態の折、我が身を担架に乗せて遠く谷中に送り届けよと頻りに要望したほど翁が最期の静養を志したのもこの社地であった。
 この神社跡地こそ、日本公害の原点地、谷中村の存在を永久に証する無くてはならぬ貴重なる遺跡であると云い得る。
 草生し木々生い茂る丘の天辺には、「雷電神社跡」と刻まれたささやかな木柱が、まるで人々の忘却に抗うかのように屹立していました。百年とすこし前、ここで正造と谷中の村人たちが車座になって、何を語っていたのか、何に怒り何に嘆いていたのか、そして何をめざしていたのか、もちろん知る術はありません。しかし、それを想像し、その事業を引き継ぐ責務がわれわれにはあるのではないでしょうか。
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 すぐ近くには、木々の間や草むらに無数の墓石や無縫塔がたちならぶ処がありますが、ここが延命院跡・共同墓地です。その寂寥感には胸をぎりぎりとしめつけられました。一つの村や町が滅ぶ/滅ぼされるというのは、こういうことなのですね。
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 守る会が設置した解説板には次のように記してありました。
 延命院は室町時代に谷中村古川に創立された寺院であり、共同墓地の墓石は江戸時代初期より連綿と存在する。谷中村は五穀豊穣の地として栄えていたが、足尾鉱毒事件により、この延命院もまた強制買収され廃寺となり、いまわずかに墓石を残すのみとなる。
 田中正造翁が谷中村に入って六年明治四十三年四月一日の日記の一部に谷中村事件を次のように記している。「谷中と銅山の戦いなり。官権これに加わりて銅山を助く。人民死を以って守る。何を守る。憲法を守り自治の権を守り祖先を守りここに死をもって守る」と主張した。
 この地は昭和四十七年谷中湖造成計画に入っていたが、公害斗争の原点であり、谷中村事件の唯一の生証人として残すべきと谷中村の遺跡を守る会の陳情運動により保存されたものである。
 今で言えば、「福島と電力会社の戦いなり。官権これに加わりて電力会社を助く」。あるいは「水俣とチッソの戦いなり。官権これに加わりてチッソを助く」「沖縄と米軍の戦いなり。官権これに加わりて米軍を助く」とも言えるかな。第二、第三、第四、第五、第六、第七…(以下略)の谷中村が現出するのを防ぐためにも、私たちは福島・水俣・沖縄の方々とスクラムを組み、"陰険邪悪なる奸計を弄し、正義を無視し人道を蹂躙し、権力と金力とを擁して、横暴不義、残忍酷薄なる手段を廻らし、虐待、凌辱、酷遇、詐瞞、邪計奸策の限りを尽して"人びとに塗炭の苦しみを与えている"厚顔無恥、冷血非情"なる日本国政府に立ち向かっていかなければなりません。ちなみに、この表現は、荒畑寒村の『谷中村滅亡史』(岩波文庫)から引用しました。書評にも書きましたが、田中正造から足尾鉱毒事件を世に訴えるために是非書いてほしいと依頼され、1907(明治40)年、土地収用法によって谷中村が強制的に破壊されるという事態に接して、寒村が一気に書き上げたドキュメンタリーです。参考のため、当該部分をあげておきましょう。
 あゝ厚顔無恥、冷血無情なるものよ、汝の名は日本政府なり。
 政府が奸計の凡てを挙げて、無智無力の農民を残害したる罪悪は、吾人以下更に大にこれを摘記せん。(p.72)

 而して揚言して曰く、東洋の君子国と。咄、厚顔無恥なるものよ、爾の名は日本国なり。(p.162)

 政府の谷中村を買収せんとするや、堂々たる憲法治下において、明々白々たる法律の明文に依るなく、敢てあるひは陰険邪悪なる奸計を弄し、正義を無視し人道を蹂躙し、権力と金力とを擁して、横暴不義、残忍酷薄なる手段を廻らし、虐待、凌辱、酷遇、詐瞞、邪計奸策の限りを尽して、以て可憐無告の村民をして、塗炭の苦に疾ましむ。(p.176)
 それにしても、開いた口がふさがらないのは、"可憐無告"の人びとに塗炭の苦しみを与えている官僚・政治家・財界諸氏が、「愛国心」を高唱し強要していることです。まるでドメスティック・バイオレンスを繰り返しながら、「私を愛せ、私を愛せ、私を愛せ」とつきまとうストーカーのよう。そしてそのお先棒を担ぐジャーナリストや学者の何と多いことか。"資本家と政府との、共謀的罪悪"(p.164)を指弾すれば「自虐史観」と切り返し、尖閣諸島や竹島問題を煽りたて中国や韓国への敵愾心やナショナリズムを鼓吹する。やれやれ… 寒村はこうも言っています。
 あゝ、かく筆を執れる間にも、わが心は悲憤の炎ほに燃ゆ。あゝ愚かなるかな、五千万の鸚鵡と豚よ、爾(なんじ)が戴ける政府、国家とは、実にかくの如き暴戻、悪虐、残忍、冷酷なるものなるを知らざる乎。爾が何ものにも勝りて尊崇せる、政府、国家とは、人民の膏血に腹を肥し、その権利を蹂躙し、その財産を掠奪し、法律の暴力を藉り来つて、人民をその墳墓の地より追ふものなるを知らざる乎。あゝ爾が崇拝せる国家の本体とは、法律てふ爪と、政府てふ牙を有して、軍隊、警察等の保護の下に、力弱き人類を取り喰ふ怪物なるを知らざる乎。(p.112)
 鸚鵡や豚とならぬためにも、この怪物の真の姿を見極め、その動きに細心の注意を払い、私たちに牙を剥いた時には匹夫の勇をふるって抗いたいものです。

 なおこちらに置いてあった“谷中村の遺跡を守る会”が発行している「谷中村たより」(1982.1.1)に次のような記事がありましたので転記します。この無知蒙昧さと無神経さには鳥肌がたちます。
 渡良瀬遊水池に原子力発電所。新年早々アットいうような話。自民党の植竹国会議員によれば遊水池の利用問題で陳情した藤岡町の町議に政府の一部には遊水池は関東地方のヘソの部分にあたり国家的事業に原子力発電という意見もあるそうです。

 本日の三枚です。
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by sabasaba13 | 2013-04-28 06:18 | 関東 | Comments(0)
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