「ルガノ秘密報告 グローバル市場経済生き残り戦略」

 「ルガノ秘密報告 グローバル市場経済生き残り戦略」(スーザン・ジョージ 朝日新聞社)読了。筆者は、グローバル市場経済に対抗してオルター(もう一つの選択肢としての)グローバリゼーションを追求する知識人・運動家です。この本の設定は面白いですね。ある秘密委員会(多国籍企業などのリーダー?)が、トップ・レベルの学者を集めて、「新ミレニアムを迎えるにあたり、自由市場資本主義システムに対する脅威と、それを普及し保持する上での障害を明らかにすること」「グローバル化された自由市場資本主義システムを最大限に拡大するための戦略、具体的方策、方向転換についてを勧告すること」についての諮問をします。その報告書が本書です。この作業部会が置かれたのが、スイスのルガノなので「ルガノ秘密報告」という題名になっています。もちろんこれは架空の出来事で(ありそうですけれど)、スーザン・ジョージの手になるフィクションです。「グローバル市場経済」をキーワードにして、環境破壊、テロ・戦争、人口問題、南北問題など今われわれが抱えるアポリア(難問)についての一つの全体像を描きあげた労作です。「なりゆきにまかせておけば、市場はほんのひと握りの勝者と大量の敗者を生み、過剰生産と過少消費、環境破壊、富の集中化と増大する不適応者の排除をもたらすのである。」 その排除された不適応者の増大が、テロと紛争の温床となっているというのが、著者の主張です。過少消費というのは、「巨大企業は先端技術に投資し、労働力投入を最小限に抑えることで一時的な利益を図ろうと躍起になっている。著しく生産性の高い工場が多すぎる結果、生産される商品も多すぎるのに対して、購買力のある消費者が少なすぎる。」ということです。
 その上で、この報告書は人口削減しかグローバル市場経済生き残りの道はないと結論を出しています。「購買力がない排除された不適応者」の削減ですね。そうすればテロ・紛争も減り、食糧問題も環境問題も解決する… そのために征服・戦争・飢餓・疫病といった手段を駆使すべきだという恐ろしい結論を出しています。
 解題では、ルガノ報告書に対抗するための彼女の見通し(オルター・グローバリゼーション)を述べています。「真の問題は、資源や資源を管理する権利が人びとの手から取り上げられていることにあるのだ」「大切なのはわずかな取り分を求めて争うことではなく、世界中の賃金と労働条件を適正なレベルにまで引き上げること、天井を設けるのではなく、底上げをしていくこと」 この事に関しては、彼女の著書「オルター・グローバリゼーション宣言 もうひとつの世界は可能だ!もし…」(作品社)をご一読ください。もっとストレートに現状を分析し対抗手段について語っています。
 それにしても地球の現状はのっぴきならない段階にまで達していることを痛感しました。よく考えて何かをしなければ。これからはフェア・トレード製品を購入するようにしよう。ところで解題にある中国古代の言葉「自分が一番したいことはするな。敵がもっとも嫌がることをせよ」の出典は何なのだろう、「孫子」かな。ご教示を乞います。
by sabasaba13 | 2005-06-14 06:23 | | Comments(0)
<< 沖縄編(18):波照間島(03.8) チャーリー・ブラウンという名の少年 >>