房総編(11):佐倉市立美術館(12.7)

 さてそれでは佐倉城址公園へと向かいましょう。廃城にされたため建物は残っていませんが、水堀・土塁・曲輪などが良好な状態で保存され、関東で唯一「日本百名城」に選定されているそうです。
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 その一画には、城主にして幕府老中の堀田正睦と、タフな交渉相手タウンゼント・ハリスの銅像が並んで建っていました。その近くで「常盤木や冬されまさる城の跡」という正岡子規の句碑を発見。解説板によると、子規が佐倉に来たのは既に病魔に蝕まれていた26歳位の時で、当時、本所から佐倉間に開通したばかりの総武鉄道に初乗りして訪れ、この句を詠んだそうです。佐倉ゆかりの画家・浅井忠と親交があったので、その縁で訪れたのかもしれません。
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 本丸跡には、県指定天然記念物の夫婦モッコクがありました。なお佐倉連隊の兵士が刻んだ「昭和十八年十月」「砲隊」という落書きがあるそうですが、視認できませんでした。さらにペダルをこぐと、「明治 大正 昭和 平成の四世に亘る 佐倉醫のこころ 茲に遺す 仁の心を腎に」という記念碑がありました。ここには、戦前には陸軍病院、戦後は佐倉療養所・病院があったのですね。
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 やがて彼方に国立歴史民俗博物館が見えてきましたが、こちらは何度も訪れているので割愛。自由広場の奥には、「佐倉兵営跡」という今村均揮毫の碑がありました。
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それでは佐倉市立美術館へとまいりましょう。古い商家・町家・蔵が散見される町並みを走り抜けると、旧川崎銀行佐倉支店の建物をエントランス・ホールとして利用した美術館に到着です。
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 こちらでいたく感銘を受けたのは、20世紀を代表する椅子の名品が随所に置かれ自由に座れることです。香川県高松市牟礼にあるジョージ・ナカシマ記念館を訪れて椅子の奥深さに開眼、もっと素晴らしい椅子について知りたいなと思っていた矢先でしたので、わたりに舟です。解説に記してあったコンセプトは、「佐倉市立美術館の中には、ニューヨーク近代美術館で永久展示になっている椅子と同じものがあります。20世紀を代表する椅子の座り心地を試してみませんか?」 試さんでか! 後学のため、解説を転記しておきます。

アルネ・ヤコブセン 「エッグ・チェア」(1958~59)
ヤコブセンは、デンマークの建築家・家具デザイナーです。彼はコペンハーゲンのスカンジナビア航空ロイヤル・ホテルを設計した際に、この椅子をはじめとする彫刻的な家具調度品から照明、灰皿、食卓刃物類に至るまで、あらゆるものをデザインしました。体をすっぽりと包み込むようなこの椅子は、卵を思わせるその形態から「エッグ」と名付けられました。
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ジャンドメニコ・ベロッティ 「スパゲッティ」(1967)
イタリア生まれのベロッティは16歳で彫刻を学んだ後、公共住宅等の建築の仕事を始めました。彼は、建築や復元などの理論的な研究に加え、都市計画やインダストリアルデザインの分野でも活躍しています。この椅子は、軽量なスチール・パイプとスパゲッティのような柔らかなPVC(ビニールのコード)で構成されています。
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ミース・ファン・デル・ローエ 「バルセロナ・チェア」(1929)
ミース・ファン・デル・ローエは、ドイツ生まれの建築家です。代表作であるこの椅子のデザインは、1929年にスペイン・バルセロナ世界博覧会のドイツ館(ローエ設計)で発表されました。湾曲した平鋼をX状に交差させてクッションを支えており、溶接技術の進歩により可能となった優美で品位のあるデザインです。
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アルネ・ヤコブセン 「ダイニング・チェア」(1955)
ヤコブセンは、スカンジナビアの家具デザインの近代化に重要な役割を果たしました。1951年から'52年に製作された椅子は、くびれたウエストラインと細い脚の形態から「蟻(アント・チェア)」と呼ばれました。その椅子の後継モデルであるこの椅子は「セブン・チェア(Series 7)」とも呼ばれ、7枚の薄板と2枚の仕上げ板の積層合板を背と板に曲げたうえに、体を包み込むように3次元にも曲げられています。
カラーバリエーションが豊富で「バタフライ・チェア」の愛称もあります。
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ミース・ファン・デル・ローエ 「カウチ(258-M)」(1931)
ミース・ファン・デル・ローエが、最後のバウハウス校長として勤めていた頃の作品です。取り外し可能な肘当てを幅2メートル程のゆったりとした皮革のクッションで構成されています。
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ハリー・ベルトイア 「スモール・ダイヤモンド・チェア」(1957)
ベルトイアはイタリア生まれの彫刻家です。代表作であるこの椅子はスチール・ワイヤーを網状に溶接して有機的なシェル型に作られています。向こう側の見えるデザインは、家具の形態と概念を一新させたベルトイアの造形意識が反映されています。
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ヘーリット・トーマス・リートフェルト 「ジグ・ザグ」(1934)
リートフェルトは「椅子は複雑であってはならない」と語っています。たった四枚の板で構成されたこの作品は、「椅子」という家具の要素を極限まで切りつめています。それぞれの板は、組継ぎによって接合され、隈木によって補強されているだけですが、以外にも頑丈です。この「椅子」の本質を問うかのような大胆なデザインは、のちのデザイナーに大きな影響を与えました。
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ル・コルビュジエ  ピエール・ジャンヌレ  シャルロット・ペリアン
「スリング・チェア」(1928)

ル・コルビュジエとピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンが共同で設計した一連のLCシリーズは、一般にコルビュジエの椅子として知られています。そのひとつ、この椅子はスチール・パイプと仔牛の毛皮張りで構成されており、背の角度が姿勢に応じて自由にリクライニングするため「バスキュラント・チェア(仏語 Basculant Chair)」(上下に動く椅子)とも呼ばれます。
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ヘーリット・トーマス・リートフェルト 「レッド・アンド・ブルー」(1918)
リートフェルトはオランダの代表的なデザイナー・建築家です。組木によって構成された幾何学的で単純なかたち、赤、青、黄の三原色を用いたカラーリングには、彼が参加していた「デ・ステイル」運動や画家モンドリアンの影響が見られます。一見、機能的とは思えない構造ですが、いざ腰掛けてみるとその座り心地の快適さには驚かされます。そこには彼の「形態は機能性を具現化したものであるべきだ」という信念が生きているのです。
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ル・コルビュジエ  ピエール・ジャンヌレ  シャルロット・ペリアン
「グランコンフォール(LC-3)」(1928)

スイス生れの建築家コルビュジエは、20世紀の世界的な巨匠です。彼と従弟のシャルロット・ペリアンが共同でデザインした椅子です。グランコンフォールは大いなる快適という意。その言葉を体感できるこの椅子では、垂直と水平が意識され、華奢なフレームとボリューム感のあるクッションによって構成されています。昨日性を重視したところから生れてくる形態の美しさを求めるコルビジエの建築とも通じるものがあります。
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 もちろん、とっかえひっかえ全ての椅子に座りました。そしてあらためて椅子の有する奥深さを体感することができました。座り心地とフォルム・色の美を高い次元で融合させた名品の数々。私が一番気に入ったのは、ヘーリット・トーマス・リートフェルトの「レッド・アンド・ブルー」。その立体的抽象絵画のようなユニークな形態、色の対比の面白さもさることながら、解説の通り座り心地の良さには驚きました。快適でありながらも頭と心を麻痺させず、思考を優しく刺激するとでもいうのかしら。ぜひ我が家にも一つ欲しいものです…が…インターネットで調べたら価格は346,500円(税込)… やれやれ、見果てぬ夢のようです。なおこの美術館の一階にあるレストラン、「カフェ・ブォナ・ジョルナータ」はお薦めです。洒落た室内装飾と調度品、大きな窓によるオープンな雰囲気もさることながら、パニーニ、ヴィシソワーズ、サラダ、ゼリーに珈琲がついたワンプレートランチはたいへん美味しゅうございました。
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by sabasaba13 | 2013-10-31 06:23 | 関東 | Comments(0)
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