再び蘭学通りに戻り、幸田薬局や三谷家住宅を撮影しながら坂道を下っていくと、佐倉順天堂記念館につきました。
解説板から転記しますと、ここ順天堂は、長崎に遊学後江戸に蘭医学塾を開いていた蘭医佐藤泰然が佐倉に移り住み、1843(天保14)年に開いたオランダ医学の塾です。ここではオランダ医学書を基礎としながら、当時としては最高水準の外科手術を中心とした実践的な医学教育と治療が行われ、その名声により幕末から明治にかけて全国各地から多くの塾生が参集したそうです。現在残っている建物は、1858(安政5)年に建てられたものと、その後拡充された施設の一部であるとのこと。純和風の平屋で中に入ると、往時の医療道具などが展示されていました。そうそう、最近読んだ『幕末維新変革史 上』(宮地正人 岩波書店)に、彼に関する既述がありました(p.137)。佐藤泰然を実父にもつ幕府奥医師松本良順は、蘭方医学の伝習には優秀なオランダ人医師からの教授が必要と考え、長崎で海軍軍医ポンペに学び、併せて全国各地より集まる日本側医学生の取締役として活躍します。江戸に戻った良順は、1863(文久3)年に病没した緒方洪庵の医学所頭取後任として、ポンぺ直伝の体系的な医学教育を医学生に徹底的に教育していきます。維新後には、山県有朋に懇請され、初代の陸軍軍医総監となって軍医制度をつくりあげることになりました。なお余談ですが、戊辰戦争では奥羽越列藩同盟の軍医として従軍し、北越戦争で重傷を負った河井継之助の治療をしたのが彼です。 それでは最後の訪問先、旧堀田邸へと向かいましょう。順天堂から自転車で十分ほど走ると到着です。最後の佐倉藩主堀田正倫が、旧領地に住居を移すためにつくった建物と庭園です。品の良い落ち着いた和風建築で、釘隠しの洒落た意匠もお見落としなく。 そして佐倉駅へ。途中にあった「ちいさな写真てん」に"学生さんはいつもより賢く写そう"とあったのには、思わず緩頬してしまいました。駅近くの小沼公園に正岡子規の句碑があるというので寄ってみると、"霜枯の佐倉見上ぐる野道かな"というものでした。 観光案内所に自転車を返却し、列車に乗り込みます。西船橋で東葉高速線に乗り換えて、八千代緑が丘駅で下車。「恋人の聖地」を見に京成バラ園へと向かいますが、あいにくバスはしばらくありません。小雨も降ってきたし、ここは泣いて馬謖を斬る、タクシーを利用しましょう。十五分ほどで到着、さっそく入場し、係の方にモニュメントのありかを確認。満開の時期は過ぎていましたが、ちらほらと咲き残る美しいバラを撮影。整形式庭園のほぼ中央にある西洋風あずまや(ガゼボというのですね、はじめて知りました)の脇に「恋人の聖地」プレートがありました。"几帳面さは自然を圧迫する"というバルセロナの諺があるそうですが、こんな人工的な景観に恋人たちはロマンを感じるのか、などという大人げない半畳を入れるのはやめましょう。入口近くにあったのが「ベルばら」のテラス、なんでも作品連載開始40周年を迎えた2012年、その名を冠したバラがフランスのメイアン社から捧げられたそうです。それを記念してつくられたテラスだとか。"そうでっかー、ボリス・ベッカー"としか言えませんが。 そしてバスの時刻に合わせて退散、帰路につきました。というわけで、少々尻切れトンボでしたが、房総編、一巻の終わりです。 本日の三枚です。
by sabasaba13
| 2013-11-02 07:39
| 関東
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Comments(2)
はじめまして。いつも楽しく拝見させてもらっています。
散歩の変人さんほどではないのですが、このサイトで近代化遺産に興味を持ち、ちょくちょく近代化遺産を巡っています。 最近、モバスタスタンプラリーなるサイトでモバイルスタンプラリーをしているのですが、そのサイトは誰でも無料で自由にモバイルスタンプラリーを作成して公開できます。 そこで、近代化遺産に造詣の深い散歩の変人さんに、近代化遺産スタンプラリーを作成してもらいたいなと思いコメントいたしました。 散歩の変人さん作る近代化遺産スタンプラリーをしてみたいという僕の自分勝手で一方的なご提案ですので、興味がなかったらスルーして下さい。
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Commented
by
sabasaba13 at 2013-11-04 19:46
こんばんは、旅人さん。近代化遺産愛好家という同好の士ができてたいへん嬉しく思います。実は私…携帯電話を持っておりません。ご要望にそえなくて申し訳ないのですが、現状の小商いで世渡りすることをご海容ください。
造詣が深いと誉めていただき、汗顔の至りです。これからも自分なりの頭と眼と足を使って近代化遺産めぐりをしていきます。コメントもお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします。
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自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
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