川瀬巴水展

c0051620_621252.jpg 「す、て、き…」 テレビの前に陣取っていた山ノ神のうっとりとした溜息が耳に入ってきました。これはただ事ではないと駆けよると、なるほどそれはそれは素晴らしい絵が画面に映されていました。南禅寺でしょう、クローズ・アップで描かれた三門が両側に紅葉をしたがえ、雨後の水溜りにその一部を映しています。その色彩や構図の見事なこと。一緒に番組(『日曜美術館』)を見ていると、大正から昭和にかけて活躍した川瀬巴水による版画だということが判明。不覚にも不学にもこの方のことは知りませんでした。千葉市立美術館で展覧会が行なわれているとのこと、互いに見かわす顔と顔、次の日曜日に行くことに即決。
 一月の某日曜日、JR千葉駅からとことこ歩いて十五分、千葉市立美術館に行くと、けっこうな賑わいです。まずは「ウィキペディア」から引用します。
 川瀬巴水(かわせ はすい、1883-1957)は、日本の大正・昭和期の浮世絵師、版画家。本名は川瀬文治郎。
衰退した日本の浮世絵版画を復興すべく吉田博らとともに新しい浮世絵版画である新版画を確立した人物として知られる。近代風景版画の第一人者であり、日本各地を旅行し旅先で写生した絵を原画とした版画作品を数多く発表、日本的な美しい風景を叙情豊かに表現し「旅情詩人」「旅の版画家」「昭和の広重」などと呼ばれる。アメリカの鑑定家ロバート・ミューラーの紹介によって欧米で広く知られ、国内よりもむしろ海外での評価が高く、浮世絵師の葛飾北斎・歌川広重等と並び称される程の人気がある。
 彼の全生涯をほぼ網羅した展覧会、心ゆくまで堪能いたしました。宿場町、門前町、港町、農村、社寺仏閣、そして東京の、何ということもないのだけれども心に残る風景を、静謐で美しい版画に仕上げたその技量には唸ります。歌川広重の『名所江戸百景』とつい比べたくなりますが、大胆な構図と斬新な着想という点では広重に軍配をあげましょう。しかしこの美しい静謐感にも心惹かれます。「動の広重」「静の巴水」といったところでしょうか。中でも、闇、雨、雪、そして水面に映って揺らぐ光や物の表現が素晴らしいですね。点景として人物が一人配されている版画が多いのですが、その方になりかわってその風景の中に佇んでみたいという思いにもとらわれました。
 なお購入したカタログによると、養女の川瀬文子氏がある場所をさして「このような綺麗な場所を絵にしたらいいのに」と言ったところ、「なんでもない場所を絵にして良く見せるのがプロだよ」と答えたそうです。見方によって美しく見えるなんでもない場所をどんどん潰していった時代への抗議、そしてそうした場所への追悼という意味合いもあったのかもしれませんね。忘れられない絵師がまた一人増えました。
by sabasaba13 | 2014-01-22 06:03 | 美術 | Comments(0)
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