越後編(56):サフラン酒造鏝絵蔵(13.3)

 道路をはさんで向かいにあるのが、嗚呼夢にまで見た機那サフラン酒造の鏝絵蔵です。見学できるかどうか確認できなかったので少々不安でしたが、門は大きく開かれ「おいでおいで」と私を招いています。恐る恐る足を踏み込むと解説板もあったので問題はなさそう、ああよかった。正面には、「酒ンラフサ」という看板を掲げた古い家屋、そしてその右にお目当ての鏝絵蔵がありました。凄い…凄過ぎる。塗戸、軒回り、まぐさ[※窓・入口上部の横木]をこれでもかこれでもかと埋めつくす鏝絵。紅殻(べんがら)やベロ藍で彩色された龍、鳳凰、麒麟、玄武、神獣、十二支を含む様々な動物、植物が乱舞し、唐草文がうねり、それらを重厚なナマコ壁がしっかりと支える。その迫力と存在感と躍動感には圧倒されました。「キッチュ、悪趣味、稚拙、成金、何とでも言わば言え、でもこんな凄い蔵はそんじょそこいらでは見られないぜ」という施主と左官の心意気が波動砲のようにびしびしと伝わってきます。なお内部にも大黒や恵比寿などの鏝絵があるそうですが、これは時々公開されているようです。ぜひ見てみたいものですね。なお建築史の泰斗、藤森照信氏の解説板がありましたので転記しておきます。
 左官がコテと漆喰で描く絵、それをコテ絵と呼ぶが、残念ながらこの面白い技法がいつどこで始まったのかは分かっていない。
 幸い、現存しているものが調査され全国コテ絵番付を作ろうと思えば出来る状態であるが、さて、長岡のサフラン酒造の蔵はどのあたりにランキングされるだろうか。個人的には、"横綱"にランクしてかまわないのではないかと思う。
 理由はいくつかあるが、まず、大きいこと。コテ絵はふつう建物の一部に点景として描かれるが、サフランは壁から軒から戸袋まで全部これコテ絵。これほど全面展開した例は他に知らない。二つ目は、絵が大振りで、色彩が鮮やかにして多彩なこと。
 この二つで横綱の資格は十分だが、もう一つ付け加えたい。一階部分のナマコ壁の一件である。日本の伝統的左官表現の中でコテ絵は異色の進歩をとげるのだが、ナマコ壁も同じように異色だった。なんせ、色は白と黒(灰色)のコントラスト。パターンは斜め格子なのだ。こんな派手なというかヘンな建築仕上げは世界に例はない。そしてコテ絵同様、誕生の事情が闇に包まれている。ナゾの技法二つがコンビを組み、長岡の町で土俵入りしているのである。
 『建築探偵神出鬼没』(藤森照信 朝日新聞社)から少々補足しましょう。色漆喰をコテで盛り上げてレリーフを描く〈コテ絵〉の分布は、西日本では大分県にあるだけで、あとは東日本、とりわけ関東を中心に、その周囲の甲信越と静岡に集中しています。理由としては、コテ絵技術を幕末に完成した左官の入江長八が伊豆松崎の出身で、江戸・関東で活躍したことがあげられます。また、花札的な図柄といい、派手な色彩感覚といい、江戸の浮世絵と江戸っ子の彫り物(刺青)との共通性を指摘されています。

 本日の十一枚です。
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by sabasaba13 | 2014-08-07 07:11 | 中部 | Comments(0)
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