『面白い本』

 『面白い本』(成毛眞 岩波新書)読了。伊藤一刀斎曰く、"剣に生きると決めたなら、正しいかどうかなどとどうだっていい。感じるべきは、楽しいかどうかだ"(『バガボンド』第32巻 井上雄彦 講談社) 御意。本に生きると決めたわけではありませんが、掛け値なしに楽しく面白い本をたずねて三千里。本書は、とにかく"面白い"という一点突破にこだわった、ありそうでなかったブックガイドです。著者は書評サイト「HONZ」の代表をされている方だそうですが、稀代の本好きという自負が紙背から沸々とたちのぼってきます。あっという間に読み終えたのですが、仰天…としか言えません。よくぞまあ、世の為人の為には何の役にも立たない、単なる暇潰しで、でも面白い本を見つけられたものです。「いかに手間隙をかけずに自分の付加価値を上げるか」的な本が猖獗をきわめている昨今、「読書は道楽」と言い切るその姿勢には一陣の涼風を感じます。
 またテーマやジャンルの広範さ…というか支離滅裂・驚天動地さは圧巻。トンパ文字、マタギ、毛沢東にポル・ポト、人妻、介錯、回虫、ハダカデバネズミ、ノアの洪水、不死細胞ヒーラ、フェルマーの最終定理、金魚、歌舞伎、エクソシスト、贋作、野糞、ダチョウ、城の作り方、宮大工、刑事、コンテナ、ロボトミー手術、無人島… まるでロートレアモンの詩のようです。これはしばらく楽しめそう、成毛氏に深甚なる感謝をいたします。なお恥ずかしながら私が読んだことがあるのは、『全国アホ・バカ分布考-はるかなる言葉の旅路』(松本修 新潮文庫)と『縛られた巨人-南方熊楠の生涯』(神坂次郎 新潮文庫)の二冊。鉄板中の鉄板ノンフィクションでは、『冷血』(トルーマン・カポーティ 新潮文庫)、『ワイルド・スワン』(ユン・チアン 講談社文庫)、『銃・病原菌・鉄-1万3000年にわたる人類史の謎』(ジャレド・ダイアモンド 草思社文庫)の三冊でした。
 さて、何から読もうかな。とりあえずドッグ・イヤーをつけたのは、『毛沢東の大飢饉-史上最も悲惨で破壊的な人災 1958-1962』(フランク・ディケーター 草思社)、『731-石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く』(青木冨貴子 新潮文庫)、『鑑賞のためのキリスト教美術事典』(早坂優子 視覚デザイン研究所)、『はい、泳げません』(高橋秀実 新潮文庫)、『日本全国津々うりゃうりゃ』(宮田珠己 廣済堂出版)、『ピュリツァー賞 受賞写真 全記録』(ハル・ビュエル 日経ナショナルジオグラフィック社)、『新装版 道具と機械の本-てこからコンピューターまで』(デビッド・マコーレイ 岩波書店)、『絵本 夢の江戸歌舞伎』(服部幸雄 岩波書店)、『ご冗談でしょう、ファイアマンさん』(リチャード・P・ファイアマン 岩波現代文庫)、『ヤクザと原発-福島第一潜入記』(鈴木智彦 文藝春秋)、『チョコレートの真実』(キャロル・オフ 英治出版)、『からのゆりかご-大英帝国の迷い子たち』(マーガレット・ハンフリーズ 近代文藝社)、『脱出記-シベリアからインドまで歩いた男たち』(スラヴォミール・ラウィッツ ヴィレッジブックス)、『無人島に生きる十六人』(須川邦彦 新潮文庫)、『もの食う人びと』(辺見庸 角川文庫)です。

 粗品ですが、お礼として、私が出会った面白本も紹介します。成毛氏だったらすでに読んでいるだろうな。ま、蟷螂の斧、蛮勇をふるいましょう。

石光真清の手記』(石光真清 中公文庫)
ジャズ・アネクドーツ』(ビル・クロウ 村上春樹訳 新潮社)
夜を賭けて』(梁石日[ヤン・ソギル] 幻冬舎文庫)
アフリカン・ブラッド・レアメタル』(大津司郎 無双舎)
世界でもっとも阿呆な旅』(安居良基 幻冬舎)
あいうえおちゃん』(森絵都・文 荒井良二・絵 理論社)
グ印関西めぐり(濃口)』(グレゴリ青山 メディアファクトリー)
アメリカ俗語辞典』(ユージン・ランディ編 堀内克明訳編 研究社)
廃墟の歩き方 探索編』(栗原亨監修 イースト・プレス)
アダルト・ピアノ おじさん、ジャズにいどむ』(井上章一 PHP新書306)
西洋音楽史』(岡田暁生 中公新書1816)
20世紀絵画 モダニズム美術史を問い直す』(宮下誠 光文社新書234)
浅草博徒一代 アウトローが見た日本の闇』(佐賀純一 新潮文庫)
パパラギ はじめて文明を見た南海の酋長ツィアビの演説集』(学習研究社)
あなた自身の社会 スウェーデンの中学教科書』(新評論)
ものづくりに生きる』(小関智弘 岩波ジュニア新書318)
by sabasaba13 | 2014-09-29 06:39 | | Comments(0)
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