追悼 長田弘

 5月3日、詩人の長田弘さんが、胆管がんのため逝去されました。享年75歳。謹んでご冥福をお祈りいたします。普段着の言葉で、人間にとって大切なことを静かに語りかけてくれる大好きな詩人でした。とは言っても、私が読んだのは『旅の話』(鶴見俊輔との対談 晶文社)、『私の好きな孤独』(潮出版社)、『深呼吸の必要』(晶文社)、『ねこに末来はない』(角川書店)ぐらい、熱心な読者でありませんでした。失ってはじめてその大切さを悟る、得も言われぬ喪失感を感じています。
 その中で拙ブログが唯一取り上げた、『旅の話』の書評をいま読み返しました。長田氏は書斎に閉じ籠る詩人ではなく、その言葉を世界に向かって開き、その思いを人間らしさを希求する世界の人々に届けようとした詩人だったのだと、あらためて痛感します。書評の中で、『かくも激しく甘きニカラグア』(晶文社)を書いたコルタサルの言葉を紹介したことを思い出しました。
 町のど真ん中で、チンピラ集団が一人の盲人をつかまえて暴力を加えているのを見て見ぬふりをしたならば、家に帰って自分の家族の目をまともに見られるだろうか?
 そしてこう付け加えました。「嗚呼、Mr.コルタサル、私たち日本人は平気で家族の目を見ているどころか、安倍伍長率いるチンピラ集団を手助けしているのです」と。この書評を書いたのが2007年4月のことですから、もう8年前ですか。弱者をいたぶるその姿勢はまったく変わっていないのはおろか、最も凶悪なチンピラ=アメリカ合州国と一緒に戦争をしたいと騒ぎたてているのですから恐れ入谷の鬼子母神です。そのチンピラに酷い目にあわされた国々は枚挙にいとまがありません。『アメリカの国家犯罪全書』(ウィリアム・ブルム 作品社)によれば、中国、フランス、マーシャル諸島、イタリア、ギリシャ、フィリピン、朝鮮、アルバニア、東欧、ドイツ、イラン、グアテマラ、コスタリカ、中東、インドネシア、西ヨーロッパ、英領ギアナ、イラク、ソ連、ベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、エクアドル、コンゴ、アルジェリア、ブラジル、ペルー、ドミニカ、キューバ、インドネシア、ガーナ、ウルグアイ、チリ、ギリシャ、南アフリカ、ボリビア、オーストラリア、イラク、ポルトガル、東チモール、アンゴラ、ジャマイカ、ニカラグア、フィリピン、セイシェル、南イエメン、韓国、チャド、グレナダ、スリナム、リビア、フィジー、パナマ、アフガニスタン、エルサルバドル、ハイチ、ブルガリア、アルバニア、ソマリア、イラク、ペルー、メキシコ、コロンビア、ユーゴスラビア…
 コルタサルの祖国、ニカラグアが、アメリカ合州国に何をされたのか、いくつかの文献から紹介します。
アメリカ帝国とは何か』(ロイド・ガードナー/マリリン・ヤング編著 ミネルヴァ書房)
 1986年に国際司法裁判所は、アメリカのニカラグア侵略を「軍事力の違法な行使」と判断し、その補償として120~170億ドルをニカラグア政府に支払うことを合衆国に命じた。ワシントンは支払いを拒否し、その代替措置として、請求を行わないことの引き換えに、サンディニスタ後のニカラグアの政権に6000万ドルの直接的な援助を行った。(p.179)

『アメリカ帝国への報復』(チャルマーズ・ジョンソン 集英社)
 たとえば、二十年前からアメリカの都市ではコカインやヘロインの中毒禍が問題になっているが、それら麻薬の供給源の一部は、中南米諸国の軍人や堕落した政治家だと見られている。かつてCIAやペンタゴンが訓練した軍人や、援助して政府の重要な地位に送りこんだ政治家たちである。たとえば、アメリカ政府は1980年代のニカラグアで、社会主義志向のサンディニスタ政権にたいする大規模な反対運動を組織した。だがその後、自分たちの訓練したコントラの兵士が武器などの補給品を買うためにアメリカの都市でコカインを売りはじめると、アメリカは見て見ぬふりをした。(p.26)

パクス・アメリカーナの五十年』(トマス・J・マコーミック 東京創元社)
アメリカの目から見て、カリブ諸島とカリブ沿岸地域において、ニカラグアは、村八分にされているキューバの次に重要であった。南ヴェトナムのジェム家とフィリピンのマルコス一族と同じように、1936年以降この国はソモサ家一族の支配下に甘んじてきた。
…この状況を強制的に終わらせたのは、1979年半ばに拡大の途にあったサンディニスタ革命であった。(p.350)

 …ニカラグアにおいてもアメリカは、サンディニスタ政権を不安定にし、彼らを権力の座から追い出そうとした。そのためにアメリカは、1954年にグアテマラで、1973年にはチリで使ったのと同じような戦術を使った。その戦術とは、経済的圧力、アメリカが操る政府転覆工作、およびアメリカ軍介入の威嚇であった。(p.365)

『概説現代世界の歴史』(ウィリアム・ウッドラフ ミネルヴァ書房)
1898年から1924年までの時期に、合衆国市民の生命と財産が脅かされるとして、合衆国は合計31回も武力を行使し、ラテンアメリカ諸国の内政に干渉している。(p.263)

レーガンが大統領になると、合衆国は一方的な軍事介入政策に復帰した。
1980年にジャマイカ、1983年にグレナダで軍事介入をした。1989年には、麻薬取引の疑いがあるとして、合衆国の政策に反対していたノリエガ将軍を捕らえるためにパナマに侵攻した。グレナダとパナマにおける合衆国の侵略はOAS憲章に対する侵害であった。1980年代のニカラグアでは、もう一つの共産主義国家の成立を恐れて、合衆国は武装集団(コントラ)を軍事的に援助した。エルサルヴァドルでは、1980年以降に6万人が内戦で死んでいるのに、合衆国は右翼政府に軍事援助を与えていた。(p.270)

『アメリカの世界戦略』(菅英輝 中公新書1937)
 加えて、経済的権益の確保それ自体がしばしば、アメリカ外交の直接的な目的となる。アメリカは、米系企業の海外権益を保護するために軍事力の行使や戦争に訴えてきた。セオドア・ローズヴェルトからウィリアム・タフト、ウッドロー・ウィルソンなど20世紀前半のアメリカのカリブ海地域への軍事介入の歴史を検討した研究の多くは、介入の背景にキューバ、ニカラグア、ドミニカ共和国の砂糖産業に対する投資、メキシコの石油利権、アメリカの金融機関による各国政府への借款供与や国立銀行に対する影響力の拡大といった経済的利害が存在したのは確かであると主張している。同じく、国際政治学者初瀬龍平は、アメリカ帝国論を包括的に検証するなかで、「帝国主義において経済的要因は、しばしば膨張主義の原動力もしくは推進力となる」と指摘している。アメリカと戦争との関係を見ていく際に、見過ごしてはならない重要な要因であろう。(p.197)
 この凶暴なチンピラと一緒に暴力をふるいたいのですね、安倍伍長。ま、『アメリカの国家犯罪全書』による下記の記述を読むと、その腐れ縁はそうとう長いようですから無理はないのかな。
 CIAは、国会選挙で自民党を一議席一議席支援するために、何百万ドルもの予算を費やし、日本社会党を弱体化させるために策動した。その結果、自民党は38年にわたり権力の座を維持した。(p.279)
 それにしても、多くの方々がこの戦慄すべき事態にたいして無関心なのが、不思議を通り越して恐怖を覚えます。スマホをいじりながら歩いているから、弱者に暴力を振るうチンピラの姿が眼に入らないのかもしれません。もしかしたらCIAと自民党は、スマホ普及のために"何百万ドルもの予算を費やし"ているのかな。冗談だといいのですが。
by sabasaba13 | 2015-05-11 06:27 | 鶏肋 | Comments(0)
<< 『地に呪われたる者』 『終わりと始まり』 >>