虐殺行脚 千葉編(1):茂原へ(16.9)

 虐殺行脚の旅、神奈川に続いて千葉編です。今回は未見の教会をいくつか絡めました。持参した本は『戦争の世紀を超えて その場所で語られるべき戦争の記憶がある』(姜尚中・森達也 集英社文庫)でした。

 まず目指すは茂原です。練馬から都営地下鉄12号線で新宿駅へと向かいますが…石原慎太郎氏がつけた「大江戸線」という名称を使っている方もおられるようですね。わが家では金輪際使いません。あの御仁が命名したという、その事だけで使う気が萎えてしまいます。最近読んだ『怒りの方法』(岩波新書890)の中で、辛淑玉氏はこう述べられていました。
 ケンカを売られたな、と実感したことがある。
 2000年4月9日、石原都知事の「三国人」発言を聞いたときだ。
 私はそれまで、この政治家を二つの視点から見ていた。
 一つは、故新井将敬・衆議院議員に対する差別の当事者。それから、もう一つは、限りなく女性嫌悪者であるという点だ。
 ファシズムが台頭するとき、権力は女性と外国籍住民を排除することから足元を固めていく。その意味で私はこの人物を気にかけていた。

 1982年11月、年末の総選挙に向けて、自民党の候補として旧東京二区(大田区)から出馬する準備をしていた新井将敬氏の政治広告ポスター3000枚のすべてに、「北朝鮮より帰化」という真っ黒いシールを、同じ選挙区の石原候補の秘書が貼った。
 秘書は逮捕されたが、石原陣営は「多国籍だった者が代議士になることについては若干の問題があると思っている」と開き直った。のちに新井氏が当選すると、すぐにケチをつけたのも彼だった。
 石原氏のマザコンぶりの一端は、関根弘氏の『針の穴とラクダの夢』(草思社、1978年)に描かれている。作家としてデビューした後も、息子慎太郎を溺愛する母親に敵を追っ払ってもらい、隣の部屋でその様子に聞き耳を立てる姿は、何とも言えぬ彼の原点を見る思いがした。
 彼は母の愛情に応えるべく生きてきたが、自分が父の代用品であることを知ったとき、母を、そして女を憎んだのだろう。彼の、女性に対するコンプレックスと攻撃性は、まさに、ゆがんだ怒りとなって表出してきている。
 石原氏自身の言葉を借りれば、彼こそまさに「腐った女」そのものとして、私の目には映っていたのだ。
 その彼が、2000年4月9日、陸上自衛隊練馬駐屯地で行われた陸上自衛隊第一師団創隊記念式典での来賓挨拶でこう発言した。

 今日の東京をみますと、不法入国した多くの三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返している。もはや東京の犯罪の形は過去と違ってきた。こういう状況で、すごく大きな災害が起きた時には大きな大きな騒じょう事件すらですね想定される。そういう現状であります。こういうことに対処するためには我々警察の力をもっても限りがある。だからこそ、そういう時に皆さんに出動願って、災害の救急だけではなしに、やはり治安の維持も一つ皆さんの大きな目的として遂行して頂きたいということを期待しております。
(Mainichi INTERACTIVE 石原知事「三国人」発言)

 軍隊は人殺しが仕事である。その軍隊を前にして堂々とこのような発言をする。つまり、外国人は殺してもいい、と言っているのと同じことだ。
 これが扇動以外の何であろうか。
 しかも、「三国人」という差別語を意図的に使った。
 世界の歴史の中で、災害時に外国籍住民が暴動を起こした事例は一件もない。あるのは、日本人が朝鮮人・中国人を殺戮した関東大震災の例であり、事実は逆なのだ。これは歴史に対する挑戦であり、私にふっかけられたケンカであった。(p.160~2)

 彼の人間に対する視点は、差別性を抜きにしては語れない。
 環境庁長官だった1977年、「人のスケジュールを無視して面会に来られても迷惑」と反公害の市民団体の陳情を拒否してテニスに行き、「(長官などの)特別職には公務員のような服務規定はない。空いていれば、寝ていようとテニスをしていようとかまわない」と述べた。同年、熊本に水俣病の視察に訪れたときは、患者らが手渡した抗議文について「これを書いたのはIQが低い人たちでしょう」と言い、1999年9月、府中療育センター(重症心身障害児・者施設)視察後の記者会見では、「ああいう人ってのは人格あるのかね」と述べた。(p.168)

 その他にも、石原氏の差別性や下品さを挙げれば、きりがない。詳しくは、フリージャーナリスト・斎藤貴男氏の『空疎な小皇帝-「石原慎太郎」という問題』(岩波書店)をお読みいただきたい。
 石原都知事のおかげで差別をすることに自信を持った人たちが増え、実名を名乗っての差別発言も目に付くようになった。もはや単に石原氏と向き合うだけでは済まない。社会が扇動に乗って動くという状況が、もう目の前まで来ているのだ。(p.172)
 はい、こういう低劣なレイシストです。関東大震災における虐殺の背景には、こうした差別意識があったことは間違いないでしょう。そしてやりきれないのは、こういう品性下劣な人物を都知事として三期も選んだ東京都民の識見です。話題のトランプ氏といい勝負だと思うのですが、大統領に当選したとはいえ、彼に鋭い批判をあびせる米国民も多いですね。なぜ日本国民はこれほど愚鈍なのか、ちょっと理解しがたいものがあります。結局、この虐殺事件を反省せず、差別意識をいまだに克服していないということですね。

 余談ですがこの御仁は、豊洲新市場問題に関する公開ヒアリングを拒否しています。やれやれ、彼の辞書には人権の"じ"の字も、責任の"せ"の字もないようです。
by sabasaba13 | 2017-01-22 06:23 | 関東 | Comments(0)
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