『タコ社会の中から』

 昨日、アメリカはサイバー攻撃や原発攻撃などで日本を壊滅させるオプションを持っていると書きました。どこかでそれに関する随筆を読んだことがあるなあと感じたのですが、思いだしました。『タコ社会の中から 英語で考え、日本語で考える』(晶文社)所収の「赤(と白と青?)の脅威」という随筆で、筆者はC・ダグラス・ラミス氏でした。
 世界中の国々のなかでいちばん、日本の国境を侵犯したり、日本人に戦争をしかけたりしそうな国はどこだろう? 答はあきらかだ。それはソ連ではなく、アメリカである。
 こんなことをいうのはタブーになっているけれども、第2次大戦後の歴史をみればそれは歴然としている。冷戦が始まって以来、アメリカもソ連も、相手の勢力圏にある国を直接侵略するようなマネはしていない。第3次大戦の引金となるのを恐れるからだ。中立国にも戦争をしかけていない。アメリカとソ連が当事国として関係している戦争や軍事行為はどれも、自分の勢力圏内の、すでに自分の支配下にある国で、その支配力が脅かされたときに始まっている。
 こうして朝鮮戦争はアメリカの勢力圏内の韓国でおき、インドシナ戦争はアメリカの勢力圏内の南ベトナムでおきた。他方、ソ連が軍事力を行使したのは、同盟国であるチェコスロバキアやアフガニスタンの侵略のときだけだ。超大国と結んだ「安全保障条約」は、その超大国が侵攻してくるのを防ぐ役にはたたないようだ。
 現在の国際的な権力構造からすると、日本を侵略しそうな唯一の国はアメリカである。といっても、侵略の可能性が大きいというのではなく、ソ連よりはまだ可能性があるというだけの話だが(もちろん第3次大戦が始まればソ連のミサイルが-アメリカの基地がここにあるから-日本に降りそそぐだろうが、第3次大戦は1時間ちょっとしか続くまい)。アメリカの侵略は、もちろん、(チェコや南ベトナムのときと同じパターンで)日本で政府の手におえないほどの反米運動がおきたときなどに、「正当な政府の要請により」行なわれる。そしてこれほど簡単なことがあるだろうか? 米軍と軍の装備はすでに日本国内に入っているわけだし、日本の自衛隊がそれに対して防御線をしいたり戦略を考えたなどという話は聞いたことがないのだから。(p.25~7)
 うわお。その通り。歴史をふりかえればたしかに一目瞭然、過去において他国に対して最も頻繁に戦争をしかけたり軍事行為を行なったりした国は、アメリカ合州国です。その理由は、ラミス氏が指摘している通り、当該国に対する支配力が脅かされた時ですね。これには当然、経済的な権益も含まれます。『政府はもう嘘をつけない』(堤未果 角川新書)によると、アメリカ合州国は、建国以来、235年中214年が戦争中だそうです。(p.170) アメリカは、戦争によって物事を解決する国なんだということを肝に銘じておいた方がよさそうです。そしてそのための準備にも余念がないということも。食事とゴルフを一緒にしてもらったとはしゃぎながら尻尾を振っている誰かさん、歴史を勉強してくださいね。
 という短いながらも鋭く本質を抉るエッセイが満載なのが本書です。日本語にして800字程度、おまけに英語バージョンも掲載されているという優れもの。シニカルに、ユーモラスに、真面目に、軽やかに、時には(特に権力に対して)怒気をはらみながら、ラミス氏の筆は縦横無尽に政治や社会や文化を活写します。なおこの「英語で考え、日本語で考える」シリーズは、他にも『最後のタヌキ』、『フクロウを待つ』、『ウォー・カムズ・ホーム』(いずれも晶文社)が刊行されていますが、すべてお薦めです。すべて絶版というのも悲しいのですが、古本屋のサイトで見つかると思います。
 なお拙ブログに『経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』(平凡社ライブラリー)と『普通の国になりましょう』(大月書店)の書評も掲載してありますので、よろしければご笑覧ください。

ウィキペディアからラミス氏のプロフィールを引用します。
ダグラス・ラミス(Charles Douglas Lummis、1936年-)は、アメリカ合衆国の政治学者、評論家。専門は政治学。日本在住。サンフランシスコに生まれ、カリフォルニア大学バークレー校卒業。1960年に海兵隊員として沖縄県に駐留。1961年に除隊後、関西に住み、ベ平連の一員として日本での活動を始める。1980年津田塾大学教授。2000年退職。以後は沖縄に移り住み、非常勤講師を勤める傍ら、執筆や講演活動を行っている。日本人論批判で知られ、のち平和運動家、また文筆活動をする。
 映画『沖縄 うりずんの雨』にも出演されていましたね。なお知念ウシさんは、御夫人です。彼女が書いた『ウシがゆく』(沖縄タイムス社)も面白いですよ。

 タイトルの「タコ社会」ですが、これは中根千枝氏が日本社会を分析する際に提唱した「タテ社会」をひねったものです。タコ社会は階級社会であって、"分割して統治せよ (divide and rule)"という古くからの方針によって組織された社会です。底辺では、住民を別々のタテ組織に組みこむことによってヨコの関係-連帯-を阻んでいます。タコの足のように。上層部では、支配階級がヨコに連帯して社会を統治しています。タコの頭のように。(p.207~9) 私に言わせれば、連帯する1%と、分断される99%、ということですね。
 では、このタコ社会に抵抗するには、その外側に出るには、トンネルの壁に穴をあけるには、何をすればいいんでしょうか? ラミス氏は、こう答えておられます。
 方法は無数にある。逆コースについて勉強し、自然の野性を愛することをおぼえ、流行に目をくれず、自転車に乗り、ウィジェット(※役に立つ機能もなく芸術的価値もない小道具や装飾品のこと)を買うのをやめ、コンピューターを笑い、自分の主義に忠実であろうと決意し、民主主義のためにあらゆるところで(特に働いている人はそれぞれの職場で)闘い、先生が教えてくれなかったことを勉強し、外に出て日没をながめ、飼犬をはなしてやりなさい。すでにそういうことを実行している人は大勢いる。その人たちに加われば、あなたはタコ社会に負けないだろう。(p.209~11)
 なお留意すべきは、いまや全世界が「タコ社会」と化していることです。そしてタコの足どうしがいがみあっていれば、タコの頭は安泰です。中国や韓国や北朝鮮の人びとと罵り合っている場合じゃないと思うんだけどなあ。タコの頭を利するだけです。
by sabasaba13 | 2017-02-15 06:27 | | Comments(0)
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