それでは「大岡信ことば館」に入館いたしましょう。ん? 企画展として開催されていたのが「釜芸がやってきた! 釜ヶ崎芸術大学・わしが美なんか語ってもええんか?」です。カマゲイ? なんじゃそりゃ?
はい、お待たせしました。こちらで偶然に出会えたのが「カマゲイ」です。それでは釜ヶ崎芸術大学の概要について、展覧会のサイトから転記しましょう。 釜ヶ崎は大阪市西成区のなかのさほど広くない地域の呼び名で、日本最大の日雇い労働者の街として知られています。かつてここに日本の高度経済成長を支えるべく、全国から若い労働力が集められました。現在の彼らは高齢化し、また様々な理由で他の地域から弾き出されることになった人々もここへ身を寄せ、今の釜ヶ崎は形作られています。その釜ケ崎で詩人・上田假奈代さん率いるNPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム)が、「学びたい人が集まればそこが大学になる」という旗印のもと、市民大学釜ケ崎芸術大学を立ち上げます。大学講師や様々なプロフェッショナルを招いて、各種講座・ワークショップを開催し、アートを通して常に彼らと共に考え、共に成長していこうとする姿勢を見せています。というわけで、講座やワークショップに参加した釜ヶ崎に住むおっちゃんたちのつくった絵、書、詩、オブジェを紹介する展覧会です。稚拙で未熟ですが、粗雑な作品はひとつとしてありません。学ぶこと、知ること、表現することの喜びが炸裂する、素晴らしい作品群です。 感銘を受けたので、「釜ヶ崎芸術大学2013報告書」を購入して、帰宅後に熟読しました。報告書によると、講座は表現、音楽、詩、天文学、書道、感情、ガムラン、哲学、お笑い、狂言、絵画、写真、合唱、ダンス、地理といった多様な内容です。その雰囲気を伝えてくれる釜芸大「天文学」講師の尾久土正己氏のコメントを紹介します。 最初の観望会は12/29、2台の望遠鏡を三角公園に持ち込んだ。「お前はどこのもんで、何をしに来たんや?」と怖そうな顔で話しかけてきたおじさんは、望遠鏡を覗いた瞬間、「これ本物か?」「うさぎおるんか?」と目が少年のようになっていた。また、病気で視力が落ちていて、なかなか見ることができずにいたおじさんの顔を手で持って、接眼部が目の正面にくるようにサポートしてあげると、「ええもん見させてもろったわ」と喜んでくれた。そのうち、見終えたはずのおじさんが別のおじさんを連れて戻ってきて、「おい、これを見てみ! デコボコがたくさん見えるやろ?」と解説をしてくれたり、列を整理してくれたりと、あっと言う間に公共の天文台で行われているような観望会が出来上がってしまった。学ぶこと・知ることの喜びと驚き、それらを人と分かち合うことによってさらに増加されるということ。おっちゃんたちの生き生きとした姿が、「学ぶ」ということの本質を十全に語ってくれます。もうひとつは、釜芸大「哲学」講師の西川勝氏のコメントです。 釜ヶ崎芸術大学の良いところは、入学試験も落第もないところだ。学びたいという気持ちだけが大切にされる。学ぼうとする姿勢が何よりも難しい。試験に受かって自分の能力を誇示し、授業料を払って対価としての知識を要求するのでは、学ぶという姿勢は生まれてこない。成績や学歴という頼りないもののために、自分の人生を手段にしているかに見える若者たちを見ると気の毒になってしまう。生きることと学ぶことが、目的手段としてばらばらにならないような学びの場を、もっと広げていく必要があるだろう。進学・進級・卒業・学歴のための手段としての「学び」、それが学校教育をいかにスポイルしていることか。「学びたい人が集まれば、そこが大学になる」という、第一期釜芸パンフレットの言葉をかみしめたいと思います。 補助金欲しさに文部科学省官僚の天下りを受け入れる早稲田大学関係者諸氏、補助金をちらつかせて再就職先の獲得に血眼となっている文部科学省官僚諸氏、穴を掘ってさしあげましょうか。 なお2016-2017年に開催される釜ヶ崎芸術大学講座がすでに決定されています。 常設展「大岡信の部屋」では、「アノニマス!折々のうた」が展示されていました。朝日新聞に掲載し続けた人気コラム「折々のうた」の中から、「よみ人しらず」や「東歌」など、無名の人々の作品が紹介されていました。私の大好きな『閑吟集』からひとつ紹介しましょう。 梅花は雨に 午後四時を過ぎたので「てっちゃん」に行ったところ、材料が入手できず今日は「長泉あしたかつ丼」は提供できないとのこと、無念。ま、いいや、今回の旅はカマゲイに出会えただけでも満足です。「学ぶ」ことに迷いが生じたら、釜ヶ崎のおっちゃんたちのことを思い出しましょう。
by sabasaba13
| 2017-02-26 08:05
| 美術
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自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
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