年がら年中というわけではありませんが、時として無性に詩が読みたくなります。磨き上げられた言葉の凄みに触れたくなるのかもしれません。好きな詩人は、萩原朔太郎、金子光晴、山之口獏、井伏鱒二、宮沢賢治、茨木のり子、田村隆一、ジャック・プレヴェール、ラングストン・ヒューズ、ディラン・トマス、ベルトルト・ブレヒト…とは言っても失礼なことに読み散らかしただけですが。
先日、ふらりと本屋に入ると、書棚に『茨木のり子詩集』(谷川俊太郎選 岩波文庫)があるのを見つけました。これは嬉しい、「わたしが一番きれいだったとき」と詩集『倚りかからず』(筑摩書房)しか読んだことがなかったので、彼女の詩をまとめて読む格好の機会です。すぐに購入し、一気に読み終えました。 以前に読んだ『詩のこころを読む』(岩波ジュニア新書9)の中で、彼女はこう言っておられました。 つづまるところ詩歌は、一人の人間の喜怒哀楽の表出にすぎないと思うのですが、日本の詩歌はこれまで「哀」において多くの傑作を生んできました。「喜」や「楽」にも見るべきものがあります。ただ「怒」の部門が非常に弱く、外国の詩にくらべると、そこがどうも日本の詩歌のアキレス腱ではあるまいか、というのが私の考えです。この詩集を読んで、あらためて茨木のり子が詩で表現する真摯で力強い「怒」を感じることができました。いくつか紹介しましょう。 樫の木の若者を曠野にねむらせこうしてみると、彼女の怒りの矛先は、国家に対してだけではなく、その「腹黒の過去」を「お茶」に濁し、「口を拭」い、その「過去に釣瓶をおろし」て「ゆったりと一杯の水も汲みあげられない愚鈍」な日本の民衆にも向けられているのですね。あらためて「腹黒の過去」を隠し、「拡大再生産」しようとする安倍上等兵政権と自民党、それと癒着する財界に対して、きちんと怒らねば、と思いました。 追記その一。中国や朝鮮に対して日本が行なった「腹黒の過去」を謳った詩がいくつかあることも知りました。例えば、朝鮮の人々が日本による植民地支配をどう見ているかを詩にした「総督府へ行ってくる」という作品です。 日本人数人が立ったまま日本語を少し喋ったときまた中国から北海道へ炭鉱労働者として強制連行され、鉱業所での屈辱に耐えきれず脱走し、終戦を知らずに13年間、北海道の山中での逃避行を続けた劉連仁氏を謳った「りゅうりぇんれんの物語」という詩もあります。 昭和三十三年三月りゅうりぇんれんは雨にけむる東京についた罪のない中国人をひどい目に合わせたこの御仁のお孫さんが、今の総理大臣ですね。そしてくらげのような官僚のみなさんは、今だにぬらりくらりと言いぬけばかり考えています。相も変わらず不思議な首都です。 追記その二。大岡信との対談の中で、茨木のり子はこう語っています。 わたし選挙を一度も棄権していないのは、やはり明治時代から女の参政権のために闘ってきた人たちがいたわけですから、その人たちへの敬意もあって雨が降ろうが嵐だろうが…。(p.345) 追記その三。若い頃によく見ていたTVドラマ、『俺は男だ!』に印象的な場面がありました。詳細は憶えていないのですが、何かトラブルがあってクラス全員が国語の授業をボイコットしました。しかし主人公(森田健作)だけが一人教室に残り、先生の前で教科書の詩を朗読します。するとそれに唱和しながら、クラスメートが次々と教室に戻ってきます。その詩がなんと、茨木のり子の「六月」という詩だったのですね。忘れていた旧友に出会えたようで、嬉しくなりました。 どこかに美しい村はないか
by sabasaba13
| 2017-07-16 05:25
| 本
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自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
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