近江編(21):桂カトリック教会(15.3)

 朝目覚めてカーテンを開けると雲の合間から陽がもれています。どうやら天気は大丈夫ですね。チェックアウトをして京都駅へ、途中に、睫毛の長い妙齢の女性のガードレール・アニマル(失礼)がありました。地下鉄烏丸線に乗って四条駅で阪急京都線に乗り換えて桂駅で下車。お目当ての桂カトリック教会は、駅から歩いて十分ほどのところにありました。
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 シャープな造型ですが、実はジョージ・ナカシマの設計なのですね。以前に香川県高松市の牟礼にある「ジョージ・ナカシマ記念館」を訪れて以来興味を持ち、この教会もいつか訪れてみたいと思っていたのですが、念願が叶いました。なお彼とこの教会については、「建築環境デザインコンペティション」内の「現代建築考」に藤森照信氏の詳細な解説があるので、長文ですが転記します。
 ジョージ・ナカシマと言っても若い人は初耳かもしれないが、これを機に覚えておいてほしい。時期は、レーモンド前川國男と重なり、仕事としては家具のデザインに新境地を開いたことで知られる。アメリカのナショナルギャラリー(国立美術館)に行くと、イサム・ノグチの彫刻と組になってジョージ・ナカシマの"樹"を感じさせる木のテーブルが置いてあったりする。
 名から分かるように日系のアメリカ人で、戦前、来日して、レーモンドと前川の事務所で働き、その時は建築家だったが、帰国して、戦時中、アメリカの日系人収容所で家具制作に目覚め、以後、戦後のアメリカを代表する家具デザイナーとして鳴らした。吉村順三は終生の親友だった。
 打ち放しに木枠と障子。そして素木のイス。いかにもナカシマ
 十数年前、ペンシルバニア郊外の森の中に立つアトリエを訪れた。もちろん本人は没した後だが、日系人の夫人と早稲田の建築を出た娘さんが今もアトリエを守っていて、娘さんのパートナーは家具づくりに励んでおられた。
 アトリエはもちろん元建築家ナカシマの設計になり、シェル構造の大空間であったが、細部のプロポーションや納まりに建築としてはなんとなく違和感があり、言ってしまえば巨大な家具のように見えた。
 で、京都はカトリック桂教会である。
 1965年につくられたナカシマの日本での唯一の建築。
 日系人収容所時代に知り合ったアメリカ人神父が、終戦後、GHQとともに来日し、布教して信徒を増やし、桂に新たに教会をつくることになり、ナカシマに設計を依頼したのだと言う。
 住宅地の一画に立つ教会を一目見て、嬉しかったし、懐かしかった。
 嬉しかったのは、ほぼ竣工当時の姿を留めていてくれたこと。この時期の建築は、構造的にも材料的にも問題が隠れている場合が多く、補強などの改修を避けられないのである。
 懐かしかったのは、戦後モダニズムの初々しさが伝わってきたからだ。この点について、以下、述べてみたい。
 まず、打ち放しコンクリートから。打ち放しは今でもよく使われているが、印象はちょっと違う。今はコンパネか鉄板型枠を使うから広い面がペッタリ平らに打ち上がるが、これがつくられた頃は、板の小片を並べた型枠だったから、小片の目地と型枠全体の目地が強調され、小さな凸凹がたくさん壁面に現れ、その結果、今よりずっと陰影が付いた。
 陰影が付くと、打ち放しはどうなるか。岩や土の肌と通底するような粗さと存在感が生まれ、その結果、レーモンドの言い方に習うと、"大地"を感じさせるようになる。近代の工業製品でありながら、大地をしのばせることのできる打ち放しコンクリートの肌。
 HPシェルの天井が高い効果をあげている
 そうした肌を久しぶりに見て、嬉しくかつ懐かしかった。
 次もコンクリートがらみで、シェル構造をとっている。HPシェルである。今ではシェル構造をやる人はほとんどいないが、この教会がつくられた1950~60年代は、日本のシェルの全盛期に当たり、丹下の〈愛媛県民館〉(1953)を皮切りに次々に出現していた。
 近代的構造によって近代ならではのダイナミズム(力動的)表現を生み出そう、というル・コルビュジエに起源を持つ構造表現主義は、当時、世界でも日本でもコンクリートシェルによってしか実現できなかったのである。
 そうして数多くつくられたコンクリートシェルも、今こう数えてみると、カトリック桂教会以外にはごく少なくなってしまった。
 インテリアについて触れておこう。障子の利用、素木の木の枠取り的な使い方に、誰でも日本の伝統を感ずるだろう。1950~60年代は、モダニズムと日本の伝統の共通性に関心が払われていた時期で、レーモンド、丹下、吉村、坂倉などが、この方向に向かっていた。ナカシマもその一翼を担っていたのである。
 日本の戦後モダニズム建築の初心が、ここにはちゃんと生きている。
 残念ながら門扉が錠で閉ざされており、内部を拝見することはできませんでした。再訪を期したいと思います。

 本日の一枚です。
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by sabasaba13 | 2017-08-18 07:54 | 近畿 | Comments(0)
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