「これがビートルズだ」(中山康樹 講談社現代新書1653)読了。ビートルズとは長いつき合いですが、その聴き方を一変させてくれた忘れ難い本があります。なだいなだの「娘の学校」(中公文庫 絶版)で、彼らがつくった優れた歌詞の数々を教えてもらいました。“タックス・マン”では、重税をかけるイギリス政府への痛烈な皮肉と哄笑、“シーズ・リービング・ホーム”では物では満たされない若者の孤独(Fun is the one thing that money can't buy)を歌ったビートルズ。なだ氏には感謝の言葉もありません。
本書は公式録音された213曲すべてを解説し、それに筆者のコメントをつけるという試みです。しかも歌詞を度外視し、純粋な音楽として鑑賞するという大胆なスタンス。賛否はあると思いますが、それを許容する巨大さがビートルズにはあると思うので諒とします。筆者の主張は、ビートルズは類まれなる技術と音楽性を備えたコーラス・グループであるということ。それぞれの楽曲を構成するパートを誰が歌い、そして誰がオーバー・ダビングしているかについて詳しい説明があり、これは大変参考になりました。おおっ、こんなところでジョージがからんでいるのか!なんてね。そして真摯さとサービス精神をもったグループであったこと。手を抜かず、全力を尽くしファンを楽しませようとする姿勢には胸が熱くなりました。今、ポップ・ミュージックに最も欠けているのはこの点ではないのかな。アルバム「ア・ハード・デイズ・ナイト」についての意見も、多彩さに欠けるという留保をつけて賛成します。
楽曲、ヴォーカル、演奏その他すべての質とレヴェルにおいて、このアルバムは真に偉大なアルバムに位置づけられるべきものだ。純粋に“音楽だけ”で勝負した場合、完全に「サージェント・ペパーズ」を凌駕する。
以前、職場の仲間とコピー・バンドをつくり、ベースとサイド・ヴォーカルを担当した時代を懐かしく思い出しました。“オール・マイ・ラビング”や“イフ・アイ・フェル”でだいたい
完璧にハモった時の快感は、とても言葉にできません。またやりたくなってきました。Fun is the one thing that money can't buy.
追記。昔のビデオを整理していたら、われらが「おじさんバンド」のリハーサル風景を撮影したテープを見つけました。いやはや、記憶は美化されてしまうのですね。「完璧に」を削除します。「オール・マイ・ラビング」の高音パートにいつか必ず再挑戦してやるぞと、空に灯がつく通天閣に俺の闘志がまた燃えるのでした。