「内部被曝の脅威」

 「内部被曝の脅威 -原爆から劣化ウラン弾まで」(肥田舜太郎/鎌仲ひとみ ちくま新書541)読了。最近、山ノ神の知人二人が乳癌になりました。そういえば乳癌関係の話題をよく聞くようになったような気もします。本書を読んでその理由を知り、いま日本と世界で恐るべき事態が進行していることに衝撃を受けました。一人でも多くの方々に読んでいただきたい本です、手遅れにならないうちに…
 肥田氏は60年にわたり内部被曝の研究を続けてきた医師、鎌仲氏は気鋭の社会派ジャーナリストです。さて、内部被曝とは何か? 放射線を体の外から浴びるのが「外部被曝」、放射線を出す放射性物質を体内に取り込み、体の内側から放射線を浴びるのが「内部被曝」です。迂闊にも私は、核兵器・原子力発電に反対する根拠として、前者の被曝しか頭にありませんでした。その蒙を啓いてくれたのがこの本です。詳しいことについては、ぜひ本書を読んでいただきたいのですが、私なりにまとめるとこういうことです。核兵器の爆発や実験、原子力発電所からの排出により、広範な地域に飛散した微量の放射線を出す放射性物質が体内にとりこまれ、どこかの組織に沈着し、アルファ線、ベータ線などを長時間、体内で放射しつづける。そのため、体細胞が傷つけられて慢性の疾病をゆっくりと進行させ、また生殖細胞が傷つけられて子孫に遺伝障害を残す。流産、小児白血病、癌、障害児出産などの増加ですね。そしてウランの出す放射線が半分になるまで(半減期)、約45億年ですから、こうした人工的放射性物質はほぼ未来永劫、地球上からなくならないわけです。しかも、気流・海流・地下水をとおして確実に世界中に拡散しつづける。厄介なのは、体内に入った微量の放射性物質がどう振舞うのか、現代の科学は完全には解明できていないという壁があることです。それを外部から計測する機械はどこにも存在しないそうです。核兵器や原発に賛成する人たちは、これを根拠に「微量だから人体に悪影響はない」と主張しているわけですね。ただデータからは、その危険性は明らかです。
 J・M・グールドの研究によれば原子炉を中心に100マイルの円を描くと、その範囲に住む女性の乳癌の発症率は、円の外の5~6倍になっていることが分かった。「女性であれば誰であっても原発のそばに住みたいとは思わないだろう」とグールドは『内部の敵』という著書に書いている。
 これが今の世界の姿です。核兵器実験、劣化ウラン弾の使用、核兵器の製造過程、原子力発電所や再処理工場、原発事故、ウラン鉱山などから大量の放射性物質が排出され続けています。それが気流や海流に乗って世界中に拡散し、貝や海草やプランクトンに取り込まれ、食物連鎖のなかで生体濃縮され、食物としてわたしたちの体内に入り組織に沈着する。わたしたちはみな「ヒバクシャ」であるのかもしれません。

 原子力発電所に反対する根拠を骨の髄まで叩き込むことができました。感謝します。今、六ヶ所村で行われている核燃料再処理工場のアクティブ試験も、決して他人事ではありません。ある環境NGOが、青森県六ヶ所村の再処理工場の海中にのびた排水口に一万枚の葉書を投入したところ東京湾の入口まで漂着したそうです。
 となると各政党の原子力発電に対する態度を確認したくなります。さっそく各政党に原発の是非についての質問をメールで送ったところ、下記のような回答でした。ご参考までに。(到着順)

自民党
「自民党に物申す」を受けとりました。自民党には毎日たくさんの方からご意見をお寄せいただいておりますため、十分な返答ができないことにご理解ください。いただいたご意見は、政策立案や党運営に反映させるべく、担当の議員やスタッフに届けておりますので、今後ともホームページでご確認ください。あなたの声が、日本を変える力です。自民党が、あなたの声をかたちにします。自民党の懐刀は、あなたです。またのご意見・ご質問をお待ちしております。

公明党
党ホームページのメールフォームを通じてご投稿いただきましたことに心より御礼申し上げます。また、このたびはご意見、ご要望を頂戴いたしまして大変にありがとうございました。今後の党運営の参考にさせていただきます。なお、ご質問、お問い合わせにつきましては、でき得る限り返信をさせていただきますが、ご希望に添えない場合もございますことをご了承ください。

日本共産党
メールありがとうございました。ご意見は担当部で参考にさせていただきます。日本共産党は、原子力の軍事利用に反対し、自主、民主、公開の三原則に基づいて平和利用をすすめる立場です。同時に、軍事技術を転用して開発された軽水炉の危険性を指摘し、原発大増設計画の中止と「段階的撤退」をめざしてきました。衆院選挙の政策においても、以下のように明記しています。(以下略)

社民党
メールをいただきありがとうございます。原子力は事故の有無にかかわらず、必ず核のゴミを生みだします。千年万年の単位で管理しなくてはならないような放射性廃棄物を伴うエネルギーを認めることは出来ません。原子力は医療や研究用に限り、厳密な管理の下で使うべきだと考えております。
ただ現に55基の原子炉が電力を生みだしている事実も無視できないため、当面軽水炉については最大限の安全管理の下で運転を認めながら省エネと代替エネルギーの開発・普及をすすめ、なるべく早期に原発依存から脱却するというのが社民党の方針です。
また、エネルギーを生み出すに至っていない核燃料サイクル計画は直ちに中止し、再処理は行なわないよう求めています。ウラン利用の軽水炉と比べプルトニウムの利用は核不拡散上の問題も大きく、使用予定のないプルトニウムの蓄積は国際社会からも厳しく批判を受けているものです。

 なお民主党・国民新党からの返事はありません。
 有権者に対する誠意を示さない自民党・公明党(賛成か反対かくらい答えろよ、べらぼうめ)、それなりの反応と回答をしてくれた日本共産党と社民党、誠意を示そうとする姿勢すら見せない民主党と国民新党(返事くらいよこせよ、べらぼうめ)、なかなか興味深い結果でした。

 追記その一。実は鎌仲氏は映画監督として「ヒバクシャ」を制作していたのですね、購入した後に気付きました。本書の内容を映像で表現した素晴らしい作品でした。最新作「六ヶ所村ラプソディー」もできたようですので、ポレポレ中野に今秋見にいく予定です。
 追記その二。自衛隊が劣化ウランを含有する対戦車砲、M-833を装備しているとの情報が本書にあったのですが、自衛隊のホームページでは確認できませんでした。もし詳細について知っておられる方がいたら、ぜひご教示ください。
by sabasaba13 | 2006-07-21 06:09 | | Comments(0)
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