「プライス・コレクション 若冲と江戸絵画展」

 上野の東京国立博物館で「プライス・コレクション 若冲と江戸絵画展」を見てきました。伊藤若冲、長澤芦雪と聞くと血沸き肉踊ります。彼らの存在を見出したジョー・プライス氏のコレクションが来日するとあっては、行かいでか! 最近TVで若冲がよく紹介されているので、ある程度の混雑は覚悟しましたが、やはり相当なもの。しかし作品の前の行列がなかなか進まないので、逆にじっくり見ることができました。まずは「花鳥人物図屏風」「鶴図屏風」で、自由闊達な筆捌きを堪能。墨の濃淡とシンプルな線だけで、生物を活写する技量には脱帽です。
「プライス・コレクション 若冲と江戸絵画展」_c0051620_7214961.jpg そして本展示における最大の話題作であろう「鳥獣花木図屏風」が続きます。さすがに混雑はここがピークでした。数分間じっと順番を待ちましたが、その価値は十二分にありました。数多の小さなモザイクによって描かれた、動物と鳥のパラダイス。山ノ神と二人で、気がつかなかった動物を見つけては微笑んでしまいました。仲でも気に入ったのが、島らしきものにつかまる二匹のかわうそ(?)と、二匹のねずみを優しく見つめる虎。若冲が小動物に注ぐ愛情を感じます。ウェザー・リポートの「バードランド」か、C・ミンガスの「クンビア&ジャズ・フュージョン」をBGMに、銘酒「獺祭」片手に少し離れたところから鑑賞したいのですが、それは叶わぬ夢。「旭日雄鶏図」の精緻にして雄渾なタッチと色彩に見惚れ、とどめはラブリーな「伏見人形図」。彼の表現の幅の広さに舌を巻くと同時に、彼は絵を描くのが好きで好きでたまらなかったんだろうなあと思いを馳せます。
 長澤芦雪も負けてはいません。「神仙亀図」のデフォルメされた大胆な表現に圧倒され(ほぐれた毛糸のような波!)、「白象黒牛図屏風」の遊び心にはほくそ笑んでしまいます。河鍋暁斎の力強い「達磨図」も、江戸琳派のコーナーも良かったですね。酒井抱一の絵をこれほどまとめて見たのは初めてです。十二種類の植物と小動物を描いた「十二か月花鳥図」の清楚にして上品な表現には唸ってしまいました。そうそう、一階で展示されている「あなたならどう見る? ジャパニーズ・アート」も忘れずに。プライス・コレクションの絵を素材に、子供たちに美術への興味をもってもらおうとする好企画です。吉村孝敬描くどんぐり眼のほのぼのとした唐獅子一家に吹きだしをつけたり、実物の金箔に触れられるなど、学芸員諸氏の工夫のあとがしのばれます。
 となりの考古遺物のコーナーでは、亀ヶ岡遺跡から連行されてきた遮光器型土偶にお目にかかれました。五能線木造駅前面にこれを模した巨大なレプリカがあるそうですが、ぜひ見てみたい。本館では酒井抱一の「夏秋草図屏風」(~9/18)と、私の大好きな久隅守景の「納涼図屏風」(~8/20)が特別展示されています。
 というわけでまっこと至福のひと時を過ごせました。プライス氏の眼力に敬意を表するとともに、こうした個性的な画家を育み援助した江戸時代のパトロネージュたちにも感謝したいと思います。稼いだ金で美術品を買い漁るだけではなく、同時代のアーティストを育てるという重要な行為が行われていた江戸という時代にますます興味がわいてきました。

●東京国立博物館 http://www.tnm.go.jp/

 精養軒が満席だったので池袋に戻り、鼎泰豊の小籠包をたいらげ、家に帰って昼寝をし、そしてナイターのテニスを楽しみ、今エビスビールを飲んでいるところです。小さいけれども確固たる幸せ…

 本日の一枚は、伊藤若冲の「伏見人形図」です。うーん、ラブリー。
「プライス・コレクション 若冲と江戸絵画展」_c0051620_7221180.jpg

by sabasaba13 | 2006-08-14 07:22 | 美術 | Comments(0)
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