ポレポレ東中野で映画「六ヶ所村ラプソディー」を見てきました。鎌田慧氏の書かれた「六ヶ所村の記録」(岩波書店/講談社文庫 いずれも絶版)を読んで以来、六ヶ所村のことがずっと気になっていました。「六ヶ所村 核燃基地のある村と人々」(島田恵 高文研)の書評、核燃料再処理工場のアクティブ試験についての記事を見ていただけると幸甚です。また去年と今年、実際に現地を訪れました。その六ヶ所村に関する映画を、鎌仲ひとみ氏がつくられたということを知り、東京での上映を今か今かと待ちわびており、やっと見ることができた次第です。今の世界における放射能被曝の状況を鋭く伝えてくれた長編ドキュメンタリー映画「ヒバクシャ」の監督にして、内部被曝の恐ろしさを訴える「内部被曝の脅威」(肥田舜太郎氏との共著 ちくま新書541)の著者でもある鎌仲氏ですから、面白くないわけがない!と楽しみにしていました。
幸運なことに、鎌仲氏と高木みのり氏とのトークショーが開演前に設定されていました。聡明にしてフットワークの軽そうな監督の軽妙にして重厚な話にしばし聞き惚れてしまいました。四万十川源流にある高知県津野町で上映会を行い、さきほど戻って来られたそうです。驚きましたが、津野町が高レベル核廃棄物最終処分場の候補地に名乗りをあげようとしているそうです。それも住民に何も説明せず町議会で決定してしまおうとしたようです。寝耳に水、それを知った住民が、原発についてもっと詳しく知るために開催した上映会に招かれたそうです。鎌仲氏が紹介してくれたその時のエピソードを二つ紹介します。ある住職曰く「政府は地方を飢えさせたうえで毒饅頭を食わせようとしている。」 ある男性が「町は馬鹿なことをしようとしている」と憤慨していると、その母曰く「それに反対しねえお前はもっと馬鹿だ」 そうそうもう一つ。北朝鮮の核実験による放射能を測定するために、三沢の米軍機が上空で調査をした時、六ヶ所村の施設はその日稼動を中止したそうです。はははは、不謹慎ですが嗤ってしまいました。たぶん核実験による放射能の数倍(数十倍? 数百倍?)の量が毎日ばらまかれているのでしょうね。なお高木氏は小田急線玉川学園駅近くの「リトル・トリー」というパン屋で働いておられる方です。国産小麦を中心とした天然素材を使用している店ですが、放射能の影響を考えて青森県産小麦の使用を断念するという苦渋の決断をされたそうです。 さて肝心の映画ですが、今、六ヶ所村で暮らし生きる人々の声と静かな叫びを中心に構成された内容です。現状では、原子燃料サイクル施設への反対運動はほとんど行われず、多くの住民が賛成の立場に立っています。ただ積極的なものではなく、経済的な理由(雇用増大と経済的波及効果)、および「国策だから/できてしまったから/政府が決めたことだから、しかたがない」という消極的な理由によるものです。ケニアの環境保護活動家のマータイ氏が「もったいない」を素晴らしい日本語だと絶賛されていましたが、政治家・官僚・財界の諸氏にとって「しかたがない」はもっと素晴らしい日本語でしょうね。とにかく雇用の機会があまりにも少ないという、この村が追い込まれている経済的苦境がよくわかりました。 その一方で、核廃棄物やプルトニウムの危険性を訴え、少数ながらも反対している人々の声に監督は(私も)共感を抱いているようです。十和田で有機農業をされているある女性の言葉が心に残りました。「たとえ賛成していなくても、何もせずにただ中立と言っているだけでは、それは賛成を意味する」 そして専門家の興味深い証言の数々。スプーン一杯のプルトニウムで2000万人を殺せると話す京都大学の研究者に、監督が「プルトニウムは漏れないのですか」と訊ねると、彼曰く「漏れないわけないでしょ!」 また政府機関の一員として原発を推進している東京大学教授は、「高レベル廃棄物最終処理場はどうするのか」という問いに対して、屈託なく笑いながら「最終的には金で解決できます。ボーリング調査をするだけで5億円もらえるのだから」と言っておりました。われわれの血税はこういう形でも使われているのですね。 監督は、賛成派を断罪するわけでもなく、反対派を称揚するわけでもなく、自分の意見を声高に叫び押しつけるわけでもなく、淡々としかし暖かい目で六ヶ所村の人々の姿を伝えてくれます。人間をして語らしめよ、という姿勢ですね。そして四季折々の美しく厳しい六ヶ所村の自然も、ちりばめられています。 というわけで、お薦めの映画です。「飢えさせて毒饅頭を食わせる」という政治的手法が、過疎地域だけではなく全国で推し進められている今(日本の六ヶ所村化、日本の沖縄化!)、見る価値は十二分にある映画です。「構造改革」で飢えさせて、原子力発電所という毒饅頭を押しつける。今われわれの安全・安心に最も脅威を与えているものは、北朝鮮でも、飲酒運転でもなく、原子力発電所と自民党=公明党が推し進める「構造改革」であることをあらためて痛感しました。そしていろいろなことを考えさせてくれる触媒にもなってくれました。エネルギーを最も大量に消費している組織(おそらく個人や家庭ではないですよね)にどうやって歯止めをかけるのか。原発をなくすのであるならば代替エネルギーをどうするのか。(資源小国のベルギーがエネルギー自給率300%だという事実は参考になるはず) なぜ闇雲に日本政府は原発を推進するのか。(企業の利権? ウランを供給するグローバル企業とそれを後押しするアメリカ政府の圧力?) そして地方が経済的苦境から脱し本当に自立するためにはどうしたらよいのか。(宮本常一さんだったら「みんなの役にたつ産業をお互い考えてみようではありませんか」と言うだろうなあ) 最後に、映画に登場した、反対運動を続けながら「花とハーブの里」という農園を経営している菊川さんの言葉を紹介します。「生活を楽しみながら、その中の一部として反対運動を続けていきたい」 そうですよね、生活が楽しくなければ、生活を脅かす存在に対する怒りもわいてきませんもの。 追記その一。10月15日、自民党の中川昭一政調会長は、テレビ朝日の番組に出演し、北朝鮮の核実験実施表明について「日本が攻められないようにするために、その選択肢として核(兵器の保有)ということも議論としてある。議論は大いにしないと(いけない)」と述べたようですね。なるほど、原発推進の理由は一端がここにあったか。 追記その二。高レベル廃棄物最終処理場の候補地選定に、いよいよ政府は本腰をいれはじめたようです。高知県では原子力発電環境整備機構が「いま、高レベル放射性廃棄物を安全・確実に処分するため、最終処分候補地を全国の市町村から公募しています。」と動き回っているようです。津野町民百五十人以上をを青森県六ヶ所村の核施設への「二泊三日、七千円の視察旅行」に招待するなど、われわれの税を使っ姑息な手段を駆使しているようです。また先日乗った飛行機の機内誌には原発推進広告が三件もありました。 安倍伍長、一つ提案があります。高レベル廃棄物最終処理場はぜひ首相官邸の地下にしてください。大量にエネルギーを消費している東京都民も、きっと諸手をあげて賛成すると思いますよ。 追記その三。ポレポレ東中野という小さな映画館には刮目すべきでしょう。これからも「炭鉱(ヤマ)に生きる」「三池 終わらない炭鉱の物語」「9.11-8.15 日本心中」といった面白そうな映画が公開されますし、故エドワード・サイードを追った作品も見られるようです。なお「炭鉱(ヤマ)に生きる」のチラシに載せてあった「日本の民俗学の中で炭鉱民俗が非常に欠落している」という宮本常一氏の言葉にはまいりました。さすがに炯眼ですね、その通りだと思います。 ポレポレ東中野 http://www.mmjp.or.jp/pole2/
by sabasaba13
| 2006-10-19 06:05
| 映画
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Comments(2)
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無所属ひとり
at 2006-10-29 09:32
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TBありがとうございます。
本当にプルサーマル計画を止める方法を考えないと、とんでもないことになりそうで心配です。僕個人でできる事として、原発関連企業の不買運動をやっています。もちろん効果は“?”ですが・・・
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sabasaba13 at 2006-10-30 19:29
こんばんは。東アジアや全世界に放射能をばらまきながら、日本列島が人の住めぬ不毛の地になってしまうという最悪の事態さえ起きかねません。不買運動、賛成です。
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自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
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