「読めばテニスが強くなる」

 「読めばテニスが強くなる ウイニング・アグリー」(ブラッド・ギルバート/スティーブ・ジェイミソン共著 日本文化出版)読了。自己紹介で「愛す」などと標榜しておきながら、テニスのことについてほとんどふれたことがありません。特段の理由はないのですが、たまには書きましょう。題して「私とテニス」。実は私、子どもの頃は肥満児にして運動が大の苦手でした。通信簿で体育の成績が3だと、赤飯ものの慶事。それでもスポーツへの憧れを抱き、中学では剣道、高校では卓球、大学では軟式野球に手を染めたのですがいずれもものになりませんでした。王貞治氏が「凡庸な努力は凡庸な結果しか生まない」と言われておりますが、運動能力の欠如に加えて凡庸以下の努力しかしなかったのですから当然のことだったと思います。やれやれ一生スポーツとは縁がないのかと諦めた頃、山ノ神の誘いにのってテニスをすることになりました。卓球に毛が生えたものだろうとたかをくくっていたのですが、まともにラリーが続かない。金網越しに見ていたギャラリーの「何あれ」と小ばかにしたような小さな嘲笑が聞こえてきます。屈辱… そこで一念発起、ラケットを買いスクールに入ってテニスを習い始めたのですが、これは自分に向いているという感触をすぐ得られました。足は遅い、体力はない、ストロークもサーブも半人前、せいぜいネットプレーが人並という体たらくだったのですが(これは今も変わりませんが)、それでもショットのコントロールとポジショニングに気をつければけっこうまともな試合になるのですね。正直に言ってスポーツ以外にしたいことがたくさんあるので、人一倍の努力や練習をする気は毛頭ありません。しかしコントロールと頭脳さえあれば、凡庸な努力でもかなりの成果をあげられるのがテニスだと確信しています。今では仲間とクラブ・チームを結成して一週間に一回程度の機会をつくりテニスを満喫しています。これでスポーツへの苦手意識やコンプレックスが解消されたのでしょう、スキーやバドミントンにも手足をそめるようになりました。
 となると欲が出るもので、もっと試合に勝ちたくなるものです。しかも過酷な練習やトレーニングなどしないで試合に勝てる方法はないものか、と王氏に聞かれたらアルゼンチン・バックブリーカーをくらいそうなことを考えていた時に出合ったのが本書です。実は知人の机上に置いてあり、その腰巻の文に目が釘付けとなりました。
 ジョン・マッケンローを引退させた男、そしてアンドレ・アガシをウィンブルドンで優勝させた男、それがこの本の著者ブラッド・ギルバートである。特別な武器となるショットを持たずに、マッケンロー、ジミー・コナーズ、ピート・サンプラス、マイケル・チャンなどの超一流プレーヤーを破り、世界4位にランクされた男でもある。戦略と戦術を駆使して、“卑怯者”とののしられても試合に勝つ方法を見つけ出すギルバートのテニスの神髄が、ここにぎっしりと詰まっている。
 ブラッド・ギルバート… ポンッ! 思い出した、ラケットをかついだ状態でトスアップをしていた、これといって得意なショットのない、ゲジゲジ眉毛のおっさんプレーヤーだ。さっそく購入し、あっという間に読了。勝率を上げるための、戦略面とメンタル面における様々な智慧と工夫を山のように伝授していただきました。「自分が難しいショットを打たずに、相手に難しいショットを打たせる」「相手コートにオープンスペースを作る」「パワーやスピードよりもコントロールが重要」「確率の低いショットでよけいな危険を冒すな」「大切なのはショットのパワーをアップするのではなく、集中力をアップさせることだ」「“相手のミスを待つ”のではなく、“相手にミスをさせる”」「相手に“何か特別なことをしないかぎりポイントを取れない”と思わせる」といった金言、しかと胸と頭に刻みました。村上龍氏が「バックハンドパスでノータッチエースをとったときの快感はマリファナよりも大きい」と言っているように、われわれ素人プレーヤーは、スーパーショットに快感をもとめがちです。しかし試合に勝つためには、計画性をもち、慌てず、集中し、そして自分の最も安定したショットを使うべきだということですね。鳥肌が立つようなショットの快感には未練がありますが、試合に勝ったときの快感には替えがたいものです。さっそく少しでも実践していきたいと思います。
 また彼自身が体験した往年の名プレーヤーとの行き詰る心理戦・神経戦についてのエピソードも、読み物として十分に楽しめます。観客を味方につけるジミー・コナーズ、人気を利用して判定を覆すジョン・マッケンロー、徹底的なスローペースで相手をじらすイワン・レンドル。良くも悪くも個性的だった手練たちの懐かしい姿が彷彿としてきました。

 なお私たちを奈落の底に突き落としている自民党・公明党・官僚・財界諸氏を戦うための戦略を考える上でも非常に有効な本でした。
(1)相手の最強の武器は何か
(2)相手の弱点は何か
(3)自分のベストショットは何で、どうすればその武器を相手の弱点に向けて使うことができるか
(4)自分の弱点を相手につけ込まれないためにはどうすればいいか

 …わたしは、自分がすべてのボールに食らいつき、必死になって返そうとしている姿を、何とかしてボリス・ベッカーに見せてやろうと考える。たとえ試合が何時間、いや何日間続いたとしても、わたしにはすべてのゲームのすべてのポイントを戦う意志があることを彼に知らしめてやろうと思う。わたしがしつこく、彼にとって永久に存在する嫌なヤツであることを気づかせたいのである。
 彼らの武器は、そして弱点は何か。私たちのベストショットと弱点は何か。どうすれば彼らの弱点に、私たちのベストショットをぶつけることができるか。そして何よりも大事なのは、私たちがしつこく、政財界にとって永久に存在する嫌なヤツらであることを気づかせること。あきらめたら試合終了ですものね、安西監督。
by sabasaba13 | 2007-02-03 07:47 | | Comments(0)
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