「ひとりずもう」

 「漫画版 ひとりずもう(上)」(さくらももこ 小学館)読了。近頃行われた意識調査で、「偉くなりたい」と考える若者が減ったと悲憤慷慨している論調をメディアで見かけます。「偉い」の定義とは何?という根本的な疑問はさておき、「近頃の若い者は…」と青少年を弾劾する言説にはしょうしょう辟易します。そういうあなたはどんな若者だったの、と訊きたいですね。ま、知人以外誰も確認できないのだから、いくらでも虚像をでっちあげられるわけですが。でもいつの時代であろうと、のんびりと思春期を過ごせた人は幸せなのではないかしら、とふと思います。
 本書は漫画家さくらももこ氏の、中学・高校時代の自伝だと思います。氏は1965年生まれなので、1980年代後半から90年代前半、つまりバブル景気の過熱から崩壊という時期にあたるのでしょう。しかし漫画を読むかぎり、そうした狂気や絶望は、静岡県清水市に住んでいたある少女には何の影響も与えていないようです。かくいう私は1960年生まれなのですが、氏の学生生活とほとんど変わらなかったですね。
 あー… このまま一生ヒマでいたいな… 私ヒマが好き…

 将来か… 私にとって将来って何だろう… 夢が叶わなくてもそれなりに幸せだといいな。…たぶん夢は叶わないから、それでもどうにか幸せな将来でありますように…
 そうそう、ヒマをもてあまし、ヒマを楽しみ、本をたくさん読み、そして幸せな将来を願った日々でした。ゆるゆるとした日常を過ごしながら、すこしずつ成長していく。へたに「偉く」なろうと競争原理の碾き臼に自ら呼び込み、他者を蹴落としていくよりははるかに真っ当なあり方だと思います。彼女のまわりには競争の“き”の字もありません。高校のクラスはみんな暢気で気楽で愉快、学校行事にもまじめに取り組まず、合唱コンクールもリレーも球技大会もビリ。怒った担任の小柳津先生はHRをボイコットしてしまうのですが、みんな気にせず担任がいたことすら忘れてしまう始末です。
 教育再生などと叫びながら、教育予算を低額のまま放置し、借りたら返すという現行のいかがわしい奨学金システムを維持し、公教育の充実に見向きもしない、安倍伍長をはじめとする政治家・官僚諸氏。いかがでしょう。せめてこうしたのんびりとした気楽で愉快な思春期を、若者たちに保障してあげたらいかがですか。
by sabasaba13 | 2007-05-07 06:08 | | Comments(0)
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